アジア、特に中華圏の社会・政治・文化事情に通暁するノンフィクション作家、安田峰俊氏のルポルタージュです。「無国籍者」となった女子大生。「夜の住人」となった軍閥高官の孫など、個性ある人物が登場します。
本書は中国を中心に活躍されているノンフィクション作家、安田峰俊氏のルポルタージュです。「無国籍者」となった女子大生。漢族によって抑圧されているウイグル族の青年。「夜の住人」となった軍閥高官の孫…。とエッジの効いた人物たちが目白押しです。
僕は安田氏の著作は『和僑 農民、やくざ、風俗嬢。中国の夕闇に住む日本人』(角川文庫)を読んで以来、僕の中に幼少時からある「中国趣味」と安田氏がメインフィールドとされている中国を中心としたアジア圏であることと重なり、彼の地が持っている獰猛なエネルギーを伴った「うねり」を独特の視点と筆致で今回も切り取ってくれております。
本書に登場する「境界の民」は「国家」という枠組みを一切取り払った場所で生きている人々を指す安田氏の造語であり、自分が20歳を過ぎて初めて「無国籍者」だと気づいた日本在住のベトナム難民2世の女子大生。日本と新疆ウイグル自治区のウイグル人。ここのくだりではマジョリティーである漢族に対して憤りを口にするウイグル族の青年の存在感が強烈でした。
日中ハーフのレゲエをこよなく愛する女子学生。中盤以降で圧巻のクオリティーを誇る「ヤマモト」と名乗る軍閥高官の血を引く日系華人の男が壮絶なまでの紆余曲折を経て上海の地で風俗店を経営するまでの軌跡などが紹介されております。
また、台湾の議事堂を占拠したことでも話題となったヒマワリ学連を潜入取材し、国民全体が「境界の民」となっている彼の地の人々へと思いをはせる…。彼らの言葉を丁寧にくみ取り、深い取材に裏打ちされた丁寧な文章と、テーマが今回も僕の「ツボ」でありまして、安田氏にはこれからもクオリティーの高い作品を生み出していっていただければと、そのようなことを願ってやみません。
※追記
本書は2019年4月24日、KADOKAWAより『移民 棄民 遺民 国と国の境界線に立つ人々 (角川文庫)』として加筆修正の上、文庫化されました。
- 感想投稿日 : 2024年10月7日
- 読了日 : 2024年7月18日
- 本棚登録日 : 2024年7月18日
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