暗渠の宿 (新潮文庫)

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本棚登録 : 796
レビュー : 128
著者 :
有坂汀さん  未設定  読み終わった 

貧困に喘ぎ、暴言をまき散らし、女性のぬくもりを求め街を彷徨えば手酷く裏切られる。そんなどうしようもない男の生き様を描いた中編小説が二編収録されております。しかし、僕はこの男のダメさ加減が愛おしい。

本書は西村賢太作品の中でもある意味ではもっとも読みたかったものなのかもしれません。収録されているのは二編の中編小説で、『けがれなき酒のへど』と『暗渠の宿』です。その中でも『けがれなき―』は西村氏のデビュー作ということで、後の『苦役列車』による芥川賞受賞のいわば「西村ワールド」というものがすでに形成されていて、『処女作には作家のすべてがある』という格言はやはり本当だなと思ってしまいました。

『けがれなき酒のへど』はどうしたって、何したって『彼女がほしい』とあえぎ続ける男が「プロ」の女性に岡惚れした挙句、なんと『思い』を遂げたあとに彼女の言う借金を肩代わりした(これも真実かどうかはわからない)90万円もの現金。それも、自身が長年悲願であった作家の全集を出版するためにプールしたいわば『虎の子』であるので、その顛末のおかしさや、ソープランドに勤めているその女性との出会いに始まり、『私』がその女性につんのめっていき、女の要求するままに自身が長年かけて蒐集した希少な近代文学の中古本を売り払ってはブランド物のバッグに変えて彼女に貢いでいく…。この落差がなんともいえないのですが、自身にもすねに傷を持つ話題を事欠かないので、読みながら身につまされてしまいました。

最後のほうに、師として崇める藤澤清造を偲ぶために能登七尾に行き、そこで住職たちから振舞われた酒や肴を『けがれなき酒のへど』として豪快にぶちまけるところが、この作品のカタルシスといったところでしょうか?それだけの目にあっても『女』を求める『業』の深さを感じさせるラストが秀逸でした。

『暗渠の宿』ではそんな『私』が長年の悲願である彼女をものにし、その新居を探すところから物語は始まります。しかし、行く先々の不動産屋で、審査に落ち、実家との断絶など、言いたくもないことを口にしなければならないことに「私」は苛立ちを隠せなくなります。しかし、ようやく見つけた部屋での二人での新生活で、彼女の持つ過去の男関係に嫉妬した「私」は徐々に鬱屈した感情を溜め込んでいきます。それがことあるごとに爆発するのを見るのが西村作品のある種の『カタルシス』ではありますが、これがまぁなんとも理不尽極まりないもので、ラーメンの湯で加減に始まり、古書店のいさかいを蒸し返したり、果ては間違ってトイレに入っている最中に彼女が入ってきたときには烈火のごとく怒り、すさまじい言葉で痛罵したあとに、打擲する。

ダメ男の典型のような彼の姿に僕は大笑いしつつも、そういう厄介なものをもしかすると自分の『裡』にも飼っているのではなかろうかと、背筋からいやな汗が流れるのでありました。

レビュー投稿日
2013年6月28日
読了日
2013年6月28日
本棚登録日
2013年4月2日
2
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