鉱物に例えられることの多い山尾悠子の文章。言葉の端々まで意識を行き届かせながら自身の影をチラリとも見せないその様子は、まるではじめから完成した作品そのものが見えていたかのようで、すでにある世界の断片をすいと掬い上げただけといった趣すらあるが、別の機会に見かけた手書き原稿に残る多くの修正の跡に、それが全くの勘違いだと気付かされる。
推敲を重ね、丹念に磨き上げることで、この硬質で豊かな世界は生まれたのだろう。例えば魅惑的な文章をうっとりと味わうような心持ちとして陶酔・陶然といった言葉があるが、山尾悠子の作品にはもう少し距離を置いた、輪郭のくっきりした表現が似合うように思う。ゆらゆらと酔うのではなく、シラフのまま、一点を見据えながら酔い続けるような。ふと快い感触を覚え手を開くと、そこにはあのヒヤリとした重さを持つ、しんと輝く鉱物がある。
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- 感想投稿日 : 2012年7月20日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2012年7月5日
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