灯台守の話

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本棚登録 : 330
レビュー : 53
制作 : Jeanette Winterson  岸本 佐知子 
asakureさん 本_海外   読み終わった 

人間は色々なもので自分を構成する。富、出自、名誉、境遇。成してきたこと、これから成すこと。けれども仮に核の部分が空っぽだとしたら、その人にとって、それは何の意味があるだろう。

主人公のシルバーは自分の核を見失った少女だ。彼女は卵が一直線に転がり落ちるほど斜めに突き立った家で育ち、母親を転落死で亡くした。孤児となった彼女に世間はあまり優しくない。はじめ、世間の代表格のようなミス・ピンチのもとへと送られ、次いで、灯台守のピューのもとに引き取られる。
シルバーの境遇は傍から見ていると幸福とは言い難い。けれども彼女が語る彼女の物語は魅力的で、そこには痛みとともに常にユーモアが漂う。それは引き取り手のピューが、自分の核を失くした彼女に対して、それを取り戻す方法――“物語ること”を教えたからだろう。

“わたしは泣き出し、それを聞いてピューは悪いことを言ったと思ったのだろう、わたしの顔に触れて、涙をそっとなぞった。
「それもまた一つの話だ。自分を物語のように話せば、それもそんなに悪いことではなくなる」”

堅固な陸と、夜の海とのあいだにあるような小説だと思った。どっしり構える陸は、ゆるぎなく、人生に疑問を差し挟ませない。寄る辺ない海の上では、いつか何処かに流されてしまう。灯台はその中心に存在し、両方を等しく照らす。

物語るという行為は幸せを約束する切符ではない。それはおそらく港へと戻る道筋を照らす灯台の光そのものだ。シルバーはどこに行っても異分子で、物語はその事実をなかったことにはしてくれない。けれどもそれが照らす光さえあれば、時間を超えて、夜の海にだって漕いでいける。

レビュー投稿日
2012年4月24日
読了日
-
本棚登録日
2012年4月6日
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