著者はもともと物理学を学び、そこから社会学に「文転」した方。科学技術社会論という、ちょっと耳慣れない分野について、丁寧に論を展開されています。
同列で扱われがちな「科学」と「技術」をしっかり定義して使い分けてる時点で、個人的にはけっこう高評価でした。中身も、実例を挙げつつ自分の口調でしっかり論じている印象があります。
3.11前に刊行された本ではあるけど、まるで原発事故後の盲目的な「原発No論」vs「それでも原発必要論」を見透かしたうえで、そういう視点では進展がないよ、と諭しているかのようです。
後半、徳島の吉野川可動堰の建設に関して紹介されているのが、「推進派」でも「反対派」でもなく「疑問派」という立ち位置。
本文から引くと、この疑問派というスタンスには、『可動堰が安全かどうか、必要かどうかではなく、「自分たちで納得して決めたい」という願いと、その結果を「自分たちが下した判断として引き受ける」という覚悟が示されている。』のであり、こうした視点を持つことで『僕たちは倫理や必要性、意味や価値に関わる問いも発することができる。科学技術を前にした時には、そうした問いこそ発しなければならない。なぜならそれらこそ、科学では答えられない、答えてはいけない問いであり、僕たちが答えなければならない問いだからだ。』と論じています。
ページ数はそんなに多くないけど、原発論議にもそういった視点で臨む必要があると感じられる、好い意見を提示した良書だと思います。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
ビジネス書
- 感想投稿日 : 2012年5月1日
- 読了日 : 2012年5月1日
- 本棚登録日 : 2012年5月1日
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