表紙の絵だけ見るとこの世の終わりかという印象もある本ですが、中身は非常に面白く、かつ読みやすいです。一般的に「自然エネルギー」と言われると太陽光発電や風力のイメージが強いのですが(それ自体、メディアによってバイアスをかけられてるのかもしれない)、序盤で風力と太陽光についてはその「可能性」と「限界」をしっかり指摘してます(こう考えると、タイトルのネーミングは秀逸)。有効ではあるものの既存のエネルギーの代替物にするには厳しい、ということが、最初の100ページぐらいで納得できます。
そのうえで、著者が「日本に適した」自然エネルギーとして挙げているのが水力と地熱。水力発電は自分が子どもの頃からエネルギー源として挙げられていた感がありますが、この二つに注目が集まらない理由もしっかり押さえられています。結局のところ、政治や利権も絡んでいるという印象も受けましたが、火山と急峻な山、ふんだんな降水量に恵まれている日本では、確かにこの二つが有力なエネルギー源となることは疑いの余地がないことなのでしょう。問題は、それを認めて協力しようというアクターが存在するかどうか。従来のエネルギー業界の利権が残る以上、なかなか難しいとは思いますが、この分野への注目がもっと集まるといいなぁと感じました。
著者は、既存の発電システムを全否定しているわけではありません。既存システムを効率化し、今まで以上に省エネ化して消費を押さえつつ、地域の実情や癖に応じたシステムを構築する(その中には、地熱や水力の新規導入もあれば、効率性が高いならば太陽光や風力を検討することも当然含まれるでしょう)ことを提案しています。東日本大震災の半年前に上梓されたこの本には、実は日本のエネルギー政策を見直して新たなアイデアを呼び込むヒントがあったのではないかと思います。
残念ながら既得権益の保持を前提とする現在のシステム下ではこのような提言は受け入れられないとは思いますが、日本で生きていく以上、こういったテーマに対しても冷静な視点で触れ、取り組んでいく必要があると思います。
- 感想投稿日 : 2015年7月23日
- 読了日 : 2015年5月29日
- 本棚登録日 : 2015年7月23日
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