世界のモンスターをテーマにしたまとめ本…というにはちょっと中身が薄い。写真が非常に多いので、文章を読んで知識を増やすというより、写真を見て楽しむといった内容。
冒頭ではモンスターを「異常なもの、過剰なもの、変異したもの」と定義づけ、具体的には「あるべきものが多い、あるいは少ない」もしくは「複数の生物が組み合わされたもの」としています。その点で、この本で多く紹介されているのは人が頭の中で創造した「モンスター」ではなく、人の歴史の中で差別されてきた「先天異常の人間たち」です。終盤では、20世紀に入ってからのサイコキラーや大量虐殺者まである種のモンスターとして紹介されていて、もはや何が何やらという感じ。いわゆる、漫画やアニメ、小説に出てくる「モンスター」を概観したいと思うなら、この本はそれに応えてくれるものではないです。
一方、序盤の数十ページで述べられている、一神教の世界と多神教の世界とでのモンスターの扱いについては面白いものがありました。
エジプトやヒンドゥーでは、半人半獣の神々が多いが、それがモンスター扱いはされず信仰の対象となったこと。特にヒンドゥー教では、神はいくつもの形態を取ることができ、動物の能力を身に着けた人の姿は神の仮の姿に過ぎないと考えられたこと。いずれも、なるほどと納得させられる理論でした。
そして一神教の世界では、すべての生物は神によって創られたとされているため、異形の姿を持つモンスターは「あってはならないもの」とされ、ほとんど生み出されてこなかったことや、その前提があるがゆえに、先天異常がある人間は神の意思に合わないものとして嫌悪され、差別されてきたことが紹介されています。さらに、まれに存在するモンスターも「最終的には神が自らの力で圧倒することができる存在」であるため、多神教では存在するモンスターにとってのライバルが一神教世界では存在しない、というのも面白い指摘でした。
先天異常は別として、それ以外のモンスターはいずれも人間の空想力の賜物。モンスターの誕生それ自体が、それぞれの地の信仰や歴史に基づいているというのは、必然ではありながらあまり考えたことのなかったポイントで、それに気付けたのは好かったです。
- 感想投稿日 : 2016年8月28日
- 読了日 : 2016年7月30日
- 本棚登録日 : 2016年8月28日
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