蚊 (新潮文庫 し 25-2)

著者 :
  • 新潮社 (1987年6月1日発売)
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本棚登録 : 252
感想 : 10
5

2019.01.07

 小学校の塾で、国語の先生から特別賞としてこの小説を譲ってもらった。思えば、これが私の読書人生の始まりであって、それから今日に至るまで仕事でも余暇でも多くの本を読む最初のきっかけになった本である。

 全体として、当時の椎名さんらしい「面白い」文章に笑いが出てしまう。電車の中で読んでは危ない。
 「真実の焼きうどん」や「蚊」「戸間袋急行」など、日常の何気ない(どうでもいい?)風景をこれほど広げるのは見事。
 突如目の前に現れ消えた鶏と、なくした万年筆との関係に謎が残る「さすらいのデビルクック」、占い一家に焦点をあてた「よろこびの渦巻き」など、面白かった。
 電車に紛れこんだ犬を見ながら、旧友の山田や自分の飼っていた犬を思い出す「山田の犬」や、すっかり生き物が少なくなってしまった海を舞台とした「海をみにいく」は若干切なさも残る。
 世の中に出版される本を読んで評定をつける公社を描いた「日本読書公社」は、検閲を禁止されている日本ではさほどでもないが、外国なんかを念頭に置くと妙にリアリティがある。

 どれもすらすら、楽しく読める作品であった。久しぶりに読んだなぁ。当時の椎名さんは明るかった。後から鬱病になられたが、まぁ、これだけのものすごい感性と世界観を持っている椎名さんであるから、無理もないかなと思われる。
 椎名さんの本を引っ張り出してきて順番に読んでみたい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: Novel,fiction
感想投稿日 : 2019年1月7日
読了日 : 2019年1月7日
本棚登録日 : 2019年1月7日

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