建物すべてがガラス張り透明化? いきすぎた監視社会をテーマにした近未来ディストピアSF #透明都市
■あらすじ
2029年フランスで暴力事件の未解決と民衆の意見によって新たな法律ができた。事件の予防と可視化を目的として、すべての建物をガラス張りにして、市民がお互いに監視し合うという社会を成立させたのだ。
20年後… 犯罪が少なくなった透明都市であったが、ある裕福な家族が行方不明になってしまう。街の治安を守る安全管理人であるエレーヌ・デュベルヌは、一家の捜索を始めることになった…
■きっと読みたくなるレビュー
やりすぎた監視社会をテーマにした近未来ディストピアSF。透明な建物で暮らすなんて、こんな世界が本当にあったらどうなってしまうのか。正直読むのが怖かったのですが、勇気を出して手に取りました。
この世界は犯罪をなくすために完全な可視化を目指した社会づくりが目的。そのため単に建物だけが透明というだけでなく、全ての個人情報もオープンになっている。名前、住所、学歴、職業、年収、病歴などセンシティブな情報でさえ分かってしまうんです。
こわっ!超イヤなんですけど。
でも確かに全員がオープンだとすると、プライバシーはなくなっちゃうけど、互いに知り尽くしているため妬み嫉みがなくなって安全性は高まるかもしれない… いや、そうかぁ? うーん、どうなるんだろう。
そんな疑問を持ちながら本作を読み進めるのですが、まぁ何より発想力がスゴイ。2020年代のネット社会から発展していったように未来が描かれていて、妙にリアルなんですよ。かつてのインフルエンサーは透明建物だからこそ広告にも利用していたり。また透明化になっていないスラムのような街も存在し、透明社会に馴染めない市民の場所になっていたり。うんうん、ありそうで怖い。
SFやファンタジーは、どう読み手に想像力を膨らませることができるかが肝だと思っていて、そういう意味では豊潤な筆致で、この透明社会の世界観に引き入れてくれます。
さてこの社会で人々の安全性は保たれるのか、そしてどんな思いで日々を暮らしているのか? 本作では元警察官の安全管理人であるエレーヌを視点に物語は進行していく。近未来でありながらも彼女は我々と同じように自分らしく生きることに日々葛藤して生きている。自身の過去と現在、恋人との関係性、上司や同僚との軋轢、社会への疑問。結局はどんな世の中でも人間は苦悶しているのだ。
果たして行方不明になった家族は見つかるのか、事件の真相は? 謎解きとしての厚みは軽めですが、真相は目をそむけたくなる。透明化がもたらした結果どうなったのか… どんな結末になるかは、ぜひ読んで体験してください。
■ぜっさん推しポイント
ある意味現代でも一億総監視社会です、透明化を突き詰めるとどんなことになってしまうのでしょうか。この物語に暗示がされていると思います。
安全に生活できるよう、日々改善をしていくことは必要です。しかし最優先に考えることは、子どもたちが希望をもって生きられる社会にすることではないでしょうか。
- 感想投稿日 : 2024年9月18日
- 読了日 : 2024年9月17日
- 本棚登録日 : 2024年9月17日
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