生きづらい令和時代と人間の歪み、優しさと厳しさの狭間に見えたのは何か… #それは令和のことでした
■きっと読みたくなるレビュー
ベテラン作家、歌野晶午先生の作品集。全八編からなる短編集で、生きづらい令和時代の歪みを切り取り、その中から発生した人間関係の情愛を描いています。物語の意外性や社会問題への指摘も先生らしく、あっという間に読み終わってしまいました。
●彼の名は
行き過ぎた価値観の母親のため、いじめにあってしまう学生の物語。
さすがベテラン先生、物語に興味をひきつけるのお上手。ムカムカしながらも、どんなストーリーなのか興味津々。ラストはやりやがったなってオチが最高。これですよ。
●有情無情 【おすすめ】
年老いた男性が通学見守りで子供たちの安全を見守っていて…
結局こういうことだと思うわ。合理性や正論ばかり振りかざす世の中から生まれるすれ違い。
●わたしが告発する!
引きこもりの姉をもつ弟、両親が亡くなり、遺産相続と将来への不安を考えた彼の取った行動とは。
煩わしいのはわかるけど、家族ならもっと言い合いをしてでも理解を深めなよ。それができるのは一番近くにいる人だけなのに…と、悲しくてやりきれない。
●君は認知障害で
既に通わなくなった幽霊大学生の主人公が、位置情報系のスマホゲームにはまっていた。ある日、街を歩きながらゲームにいそしんでいると、認知症が疑われる老婆と出会う。彼女との出会いが彼の人生を変えてしまい…
現代の若者と生き抜くつらさ、高齢者を狙った犯罪、そして家族が何たるかを問われる作品。
●死にゆく母にできること
入院している母の看護をしている妻と、その家族の物語。厳しかった母の躾の影響で、自らの娘にも辛くあってしまう悩める母は…
育ってきた環境と夫婦の価値観のズレが現実的すぎて恐ろしい。しかも短編にも関わらず、この重厚感はなんだ。
●無実を二人を分かつまで 【おすすめ】
会社を辞めた主人公は、住宅や遺品整理の日雇い労働に就く。ある日従業員が会社の金庫を荒らす事件が発生、その際に仲間が重体の怪我を負ってしまう…
謎解きとしても読みごたえがある作品。底辺を彷徨う人間たちと、まだまだ優しくない日本を痛烈に味わうことになる。どこまでも悲しい。
●彼女の煙がはれるとき 【おすすめ】
将棋の女性真剣師である駒音、彼女はトラック運転手の憲士郎と引きこもり女子高生の陽菜の三人家族であった。将棋道場に通いながらも日ごろの家事と介護生活をしており、彼女は煙草を吸うことでストレス解消していた。健康のためにも煙草をやめたいのだが…
興味深い設定で、ぐいぐい引き込まれる。実は私も喫煙者、世間の目や肩身の狭い思いがよくわかる。格差社会や福祉の現実も良く描かれていて、実は社会問題も描いているおすすめの作品。
●花火大会
夏の花火大会、いつもの女子仲間が集まって…
ラストは本書唯一の掌編。青春時代、友達、約束… 真夏の夜空に広がった花火と友情が美しい。
■ぜっさん推しポイント
令和時代となり、不適切なことは許されない時代になりました。少し前はコロナ禍で世界中が大混乱、そしてとある国では戦争も始まり、すっかり不安定な世の中になったものです。
私の仕事もテレワークがメインとなりました。時間がとれるようになって、とてもありがたいんですが人との繋がりが希薄になったような気がしますね。人間関係で大事なのは、余白の部分だと思うのです。決めごとを妥当な内容で合意形成するだけでなく、あまった余白でどういったコミュニケーションをするのか。
本作品の数々を読んでいると、もう少し人に寄り添った世の中にならないものかと憤りを禁じ得ないです。
- 感想投稿日 : 2024年5月6日
- 読了日 : 2024年5月6日
- 本棚登録日 : 2024年5月6日
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