神童

  • 文藝春秋 (1996年1月1日発売)
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── 山本 茂《神童 19981210 文芸春秋》
http://booklog.jp/users/awalibrary/archives/1/4163513302
 
…… バイオリンの神童、悲劇の背後に何が
 「メニューインの再来」と絶賛され、世界的なバイオリニストとして
の輝かしい将来を嘱望されながら、留学先のニューヨークで、深い孤独
の中、音楽家生命を閉じた少年がいた。少年の名は、渡辺茂夫。昭和二
十年代のクラシック界を知るファンには、懐かしい名前かもしれない。
山本茂著「神童」(文芸春秋、一八〇〇円)は、遠い過去の人となった
天才の、あまりにも痛ましい物語を、事件から約四十年を経た今日、静
かな筆致で伝えている。
 少年は、バイオリン教師の父の下で五歳から指導を受け、七歳の初リ
サイタルで見事にパガニーニの協奏曲をこなし、鮮烈なデビューを飾っ
た。十二歳でソリストとして日本の一流オーケストラと共演、十四歳で
巨匠ハイフェッツの推薦を受け、ニューヨークのジュリアード音楽院に
入学した。
 しかし、二年後の一九五七年秋、一人暮らしのアパートで、睡眠薬を
飲んで倒れているところを発見される。失恋、過失、周囲のねたみなど
が取りざたされたが、真相は不明のままだ。少年は、一命はとり留めた
ものの重い障害を背負い、言葉も音楽も失った。現在は神奈川県鎌倉市
内で父と共に静かな生活を送っている。
 悲劇の背景に何があったのか。本書は、ジュリアードでも卓越した才
能を見せながら、レッスンにけん怠感を示し、遠い異国で精神的な危機
を迎える少年の様子を、関係者への丹念な取材を基につづっている。危
機の輪郭はおぼろげに見えてくる。著者は、少年を当時の「日本そのも
の」に重ね合わせた。
 繊細で、深い音楽的感性に満ちた少年の物語は、本書を通じて、末長
く記憶されていくであろう。(天)
── 19960630 東京朝刊 書評B 10頁 00663字 03段 [気になる一冊]
 
http://www.enpitu.ne.jp/usr8/bin/day?id=87518&pg=20030210 陰陽一致
 
(20160215)
 

読書状況:読みたい 公開設定:公開
カテゴリ: [音楽分庫]
感想投稿日 : 2016年2月15日
本棚登録日 : 2016年2月15日

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