匿名者のためのスピカ (祥伝社文庫)

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本棚登録 : 100
レビュー : 8
著者 :
夢色さん ▶島本理生   読み終わった 

【あらすじ】
法科大学院生の笠井修吾は就職の相談がきっかけで同級生の館林景織子と親しくなる。彼女には恋人に監禁された過去があり、今もその男らしき相手から連絡が来るという。怯える彼女を守ると誓った修吾だったが、ある日彼女は、その男と思しき人物の車に自ら乗って姿を消してしまう。修吾は彼らを追って南の島に向かうが…。著者が初めて挑む、衝撃の恋愛サスペンス!

【感想】
愛情とは何かをすごく考えさせられた一冊だった。自分にとってはこれが普通だと思う愛情でも、他人からしてみたらそれは普通の愛情ではないこともあるんだなと思った。そのわかりやすい例がマザーコンプレックスだと思う。当の本人たちは愛情をただ与え合っているだけだと思っている。でも傍から見たらそれは、少し異常に映る。今回の物語はそれと同じと言っていいのではないだろうか。マザーコンプレックスはお母さんと子ども、この物語の場合は誘拐犯と少女。元恋人でもあった。景織子は親からの愛を受けられずにいたせいて、愛に飢えていた。だから、優しく差し伸べられた手を握ってしまった。それが悪夢の始まりだった。でもそれを景織子は悪夢と果たして認識していただろうか。そんな境遇の景織子を、好意を持たれた笠井は
救おうとする。クラスメイトのちょっと不思議な七澤と共に、景織子の行方を追う。なぜそこまで七澤が力を貸してくれるのか。叔父の太一が七澤の過去を笠井に語ってくれた時、七澤も愛に飢えていた時期があり、自分と景織子を重ねていた部分があったのかもしれないと感じた。だから助けたいと思ったのかもしれないと。笠井は純粋に景織子に好意を持ち、助けたいと思っていた。でも、景織子の方はどうだっただろう。元恋人の歪んだ泥沼の愛情から抜け出せなくなっていたのではないか。この人には私しかいない。私にはこの人しかいない。そんな風には思っていなかっただろうか。これこそ歪んだ愛情だ。もう付き合ってもいないのに、何年も会っていなかったのに、監禁されていたことだってあったのに。それでも、久しぶりに会った時に、波照間島に星を見に行こうと言われて、景織子はついて行った。ここでようやくタイトルの意味について考える。匿名者のためのスピカ。元恋人は、自分のための星、つまり輝かんばかりの愛を手に入れたかった。そういう意味でもあり、好きになった人と、スピカを見に行きたいという意味も込められているのではないかなと思った。愛情とは奥深いものだと思う。一歩間違えたら歪み狂うものでもある。純粋で輝かしい透き通った星のようなものでもある。この物語に出てきた登場人物は皆、誰もが歪んだ愛情を少しずつ抱え、大きく抱え、または過去に抱えている人もいた。完璧な愛情とは何か。そう聞かれてもわたしは答えられない。なぜならわたしの受けている愛情もきっとどこかしら歪んでいるからだ。歪みのない愛情なんて存在するのだろうか。完璧な愛情なんてあるのだろうか。あるのならそれがどんなものか、わたしは知りたい。この物語を読んで、愛情以外にも完璧って難しいことだらけだよなと痛感した。匿名者のためのスピカは、もしかしたら、あなたのためのスピカを指しているのかもしれない。

レビュー投稿日
2018年7月3日
読了日
2018年7月5日
本棚登録日
2018年7月3日
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