妻が外に愛人を持つことを夫が容認する仮面夫婦。「別れよう」と心に決めながらも、決断できない様子、ゆらゆらする心情は、理屈っぽい読者(と従弟)を苛立たせるが、そう簡単に割り切れぬのが人間というものなのだろう。
結末は描かれない。主人公が妻の老父の妾(いかにも日本的な美しさを湛えた女性)に心惹かれる様子がなんとなく書かれ、あっけなく幕切れが訪れる。別れたのか、それとも別れなかったのか、そこは大して重要ではないのかも。ハイカラなもの、日本的なもの、その両方が多く描かれる中で、終局は日本的なものに原点回帰したことが根底にあるテーマなのかも知れない。注釈の多さが読み進める上で苦労にもなったが、当時の文化芸能の片鱗が見えておもしろかった。
娼婦型と母婦型。娼婦型の女は男を引きつける「女性らしい」肉体を持ち、母婦型の女は控えめな「女性らしい」精神を持つ、ということなのかなと思った。どちらも「女性らしい」なら、女性はその逆説の中で生きなければならないということなのかも知れない。そしてそれは、現在も変わらず女性につきまとう逆説なのかも。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
近代文学
- 感想投稿日 : 2017年12月7日
- 読了日 : 2017年12月5日
- 本棚登録日 : 2017年12月5日
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