佐野さん自身と母親との関係を描いた生々しいエッセイ。呆けた現在の母と、苦しみを与えた過去の母を行ったり来たりするような構成が、その切実さをいや増している。
終戦後、5人の子を抱えて中国から引き揚げ、その後3人の子を亡くした母。さらに夫(佐野さんの父)も亡くなり、女手一つ、完璧な家事と仕事で4人の子供を大学まで行かせた母。一方、ヒステリックで子どもに虐待の様なこともし、見栄と自尊心をこじらせていた母。どちらも同じ母で、すべてを嫌いになれなかったからこそ、佐野さんはさんざん苦しめられたんだろうなと思う。
問題を起こす家族は、物理的に離れること、これが一番なんだと思う。親を捨てたという思いはいつまでもつきまとうかもしれない。けど罪悪感と生きてゆく重い覚悟なんてせずに、「とりあえず離れる」という選択があってもよいのでは。佐野さんのように、いつか許せる日が来るかもしれないんだから。
生後33日でコーヒーの様な血を鼻から出して死んだ赤ん坊や、脱腸していた近所の同級生の母親の描写など、戦後の貧しい日本にはキョウボウな匂いが漂っていたんだなあとしみじみ感じた。死が遠いものになり、ある意味「無菌状態」な今の日本で、「百万回生きたねこ」のような作品は生まれないのかもしれない。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
エッセイ・対談集
- 感想投稿日 : 2018年1月3日
- 読了日 : 2018年1月1日
- 本棚登録日 : 2018年1月1日
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