独特の気持ち悪さを感じる贖罪の物語
感想
いたって普通の推理小説のように始まりますが、読み進めるにしたがってこの世界の謎とともに登場人物の罪や「異常性」が明らかにされていきます。
発生する出来事は不愉快なものが多く、異様な世界観はその性質上登場人物たちの罪を正当化するように構築されています。
そのため、最初は共感できてもだんだんと共感しがたくなる一風変わった作品です。
登場人物がいかにして「異常」な人格を獲得していったのかについて丁寧な説得がなされています。(共感できるかは別ですが)
また、主人公が子どもであるためか短文が多く、簡潔な文章で表現されているので、すらすらと読めました。
身近な世界から異様な世界へと徐々に読者を引き込んでいく構成力には舌を巻きました。
気持ち悪さが強く目立ちますが、実はこの作品の主題も深いように思います。
個人的にこの作品のテーマを述べるなら「主観」。
下のお気に入りの文章にもあげる通り、自分の主観は極めて都合よくできているのではないかと考えさせられます。
「僕」がミカを殺してしまったのも、S君を殺してしまったのもある意味で事故だったのでしょう。
悪意のない悪事はたちが悪いですし、本人としても消化しづらいものです。
内容的に好き嫌いが分かれる作品かと思われます。
個人的には好みで没入しましたが、自分の過去を思い心が痛みました。
また、自分の世界を広げてくれる大事な作品となりました。
お気に入りの文章
「みんな同じなんだ。僕だけじゃない。自分がやったことを、全部そのまま受け入れて生きていける人なんていない。どこにもいない。失敗をぜんぶ後悔したり、取り返しのつかないことをぜんぶ取り返そうとしたり、そんなことをやってたら生きていけっこない。だからみんな物語をつくるんだ。昨日はこんなことをした、今日はこんなことをしてるって、思い込んで生きてる。見たくないところは見ないようにして、見たいところはしっかりと憶え込んで。みんなそうなんだ。僕はみんなと同じことをやっただけなんだ。僕だけじゃないんだ。誰だってそうなんだ」
言葉は同じ内容を繰り返していた。悲しいわけではなかった。後悔しているわけでもなかった。僕は、ただ寂しかった。
- 感想投稿日 : 2015年8月17日
- 読了日 : 2015年4月1日
- 本棚登録日 : 2015年8月17日
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