変身 (新潮文庫)

  • 新潮社 (1952年7月28日発売)
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本棚登録 : 15243
感想 : 1599
5

家族のために一身に働き家族を支え、
ある日目を覚ますと大きな1匹の蟲へと
変身していた主人公グレーゴル。

善き息子、善き兄、勤勉な社員としての自分。
すべてを捨てて蟲となった時、皮肉にも
あらゆるものから解き放たれ、本質としての自由を
手に入れ、孤独の中に安堵を見出したのだろうか。

現代にもというよりは、現代社会こそ
カフカの世界に通じる問題がリアルにそこ此処で
共感しやすい作品になっているようで、
なんとも悲しく遣り切れない思いもする。

人生には苦しく辛いことのほうが多く、
見たくない現実はすぐそこに山積みで。
絶望するのは容易く、希望を持つことは難しい。

生きていることの意味や自分の価値、
目標や夢を持つことを強制されるような
息苦しい社会の中で、強烈な自意識は
孤独や絶望を生んでいく。

自意識の檻を抜け、人目や人からの評価、干渉、を
気にすることなく自由になった代わりに存在を疎まれ、
グレーゴルを頼りきることで生きていた家族は
皮肉にもグレーゴルの崩壊とともに自立を目指し
自分にとって不利益なものとなったグレーゴルへの
家族としての愛情と、疎ましく想う自己愛との狭間で揺れる…。

家族という絶対的に思えて不確かな集まりは
他人よりも遠くすれ違う。
社会、家庭への冷えた感情、孤独に追い込まれ
虚無へと回帰するカフカの独白と迷い、願望とも思えた。

優しい人も、優しい現実も現代では
幻想に近いのかもしれないけれど、
ニヒリズムの向こう側に光を見いだせるほどの
力強い明るさを持った優しさを持てる人になりたい。

心という目に見えない闇の表象。
カフカという世界を垣間見れた体験に
たくさんの感情が静かに震えた。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ■ フランツ・カフカ
感想投稿日 : 2013年12月6日
読了日 : 2013年12月6日
本棚登録日 : 2013年12月6日

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コメント 1件

猫丸(nyancomaru)さんのコメント
2014/04/08

「心という目に見えない闇の表象。」
此れを書いたカフカの、心の中を覗いてみたい(もっとも「変身」だけじゃなく、どれも屈折していますが)

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