アンソニー・ホロヴィッツによるコナン・ドイル財団から認定された新しいホームズ長編。
本書は、シャーロック=ホームズ亡き後の老境のワトソンが、かつてホームズの活躍で解決したものの様々な方面への影響が大きすぎる、と金庫にしまい込んでいた事件の記録を公表した、という体裁で描かれている。
結婚し、ホームズとの同居生活を解消したワトソンが、妻の一時不在のためしばらくホームズのもとに身を寄せることになる。そこに飛び込みでやってきたのは、画廊の共同経営者カーステアーズ。彼は、高価な絵画の取引でトラブルに巻き込まれ、命を狙われているという。ホームズとワトソンは、彼の命を狙っているキーラン・オドナヒューという悪党の足取りを浮浪少年たちで結成された“ベイカー街別働隊”に頼むが、彼を見張っていたロス少年が行方不明となり、さらには“絹の家”という謎の言葉が残される。ロスの行方は、そして“絹の家”の正体とは。
もうだいぶ昔にはなるが、シャーロックホームズに夢中になって全シリーズを読み通した。新しいホームズの長編、と聞いて楽しみ半分、不安半分だったが、私の中にあるホームズのイメージを壊されることなく楽しんで読むことができた。
アンソニー・ホロヴィッツの本は情報量が多いので、最初のとっかかりに時間がかかるが、一度ストーリーに入り込むとぐいぐい読み進められる。どことなくうさんくさいカーステアーズ氏の家族、ロス少年の過去、禍々しさを感じさせる“絹の家”など、複数の秘密がストーリーを引っ張っていき、ホームズによってきれいに収束される展開は見事である。
絶体絶命の危機に陥ったと思わせて不死鳥のごとく蘇るホームズに、往時のホームズの活躍を思い出してうれしくなった。
ストーリー自体は当時のイギリスの闇を描いた陰惨な内容で、解決後もしこりのようなものが残る。パスティーシュにそれほど興味はなかったが、現代だからこそ描ける当時の風俗がある、と考えれば、亡くなった作家の最新篇を読む、という単純な楽しみ以上の意味もあるのかもしれない。
- 感想投稿日 : 2021年7月22日
- 読了日 : 2021年7月20日
- 本棚登録日 : 2021年7月22日
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