アルタイの片隅で

  • インターブックス (2021年10月5日発売)
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感想 : 10

新彊北部、アルタイ地区で暮らしていた著者が、実家の裁縫店兼雑貨店を訪れる遊牧民のとの交流や生活を描いた散文集。

著者の李娟は漢民族の生まれ。定住を基本とする彼らが、冬にはマイナス30度を下回るという厳しい自然環境の中、言葉もわからない状態で店を開き、客を求めて何度も移動するのだから、決して楽な生活ではなかっただろう。それでも、彼女が語る遊牧民の人たちとの交流エピソードは、くすっとしてしまうようなユーモアや温かみにあふれている。

ツケで洋服を購入した男性の居所がわからず、たまたま立ち寄った遊牧民らしき男性に聞いてみたら、購入した覚えがないがノートの文字は自分の字だ、と費用を分割で支払っていったという『普通の人』のエピソードが大好きだ。いつ会えるかわからない遊牧民なのにツケが成り立ち、購入したかどうかもあいまいなのに支払ってくれる律儀さというかおおらかさに、自分とは全く違う価値観で動く世界があるんだな、と驚いてしまう。

『お酒を飲む人』では、酒に飲まれるちょっと困った人たちが大勢登場する。酔っぱらうと電気代の集金に行き、取り立てが終わると今度は電気を1軒1軒止めて回る人、店が閉まっていても開けてくれるまで何時間も扉をたたき続ける人、氷点下の雪の中で眠ってしまい、危うく命を落としかけたのに懲りずに飲み続ける人。トンでも人間の面白さの中に、酒を飲んでやり過ごしたい生活の厳しさも感じられてちょっと切なくもなる。

著者の李娟は、20歳の時に文章を書く練習としてこの散文を綴ったそうだ。ぎこちなさが残る部分もあるが、雄大な自然の描写はハッとするほど美しく、食事作りを中心とした生活行為の描写は臨場感にあふれていて心を打たれる。
中国の政策によってなくなりつつあるという遊牧民の生活を垣間見ることができるという点でも貴重な本だ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 自伝・紀行・エッセイ
感想投稿日 : 2024年5月11日
読了日 : 2024年5月10日
本棚登録日 : 2024年5月11日

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