こころ (岩波文庫 緑 11-1)

著者 :
  • 岩波書店 (1989年5月16日発売)
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本棚登録 : 1779
感想 : 184
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おそらく日本の学校に通っていた人なら、教科書なり何なりどこかのタイミングで「こころ」の一部を読んだことがあるはずだ。

わたし自身も初めて読んだのは、高校の教科書で。読んだ時の印象はそれほど残っていなくて、覚えているのは、「精神的に向上心のないものは馬鹿だ」という言葉くらい。

改めて読んでみて思ったのは、教科書に掲載されている「こころ」はほんの一部にすぎず、全体を通して初めて気づくことがたくさんあるということ。

人間の心の中では、複雑な変化が起きる。
疑い、愛情、嫉妬、恐怖、かなしみ。
人の「こころ」というのは、相手の「こころ」を反映する。
また、自分の「こころ」とはまったく異なる解釈をされる時もある。その逆も然り。

本作品では、人の内面、つまり、心の動きについて、細かく描かれている。なぜその結末に至ったのか、そして「わたし」のその後を想像する余地が残されているのが、やはり多様な解釈がされる作品の理由なのだと思う。



純文学は「日本語が美しい」。

友達にそう言うと「自分はそれはよくわからないけど、純文学が好きな兄も日本語が美しいから好き」と言っていたと言っていた。

この作品も、情景描写がとてもよくて、「夏目漱石が好き」という人の心を理解することができたように思う。

【あらすじ】
海水浴場で見かけた先生に、わたしは強く惹かれた。
何度か接触を試み、わたしは先生と話をすることに成功する。そして、わたしと先生の付き合いが始まる。
奥さんに何かを隠している様子や「善人だと思っていた人が、いざという時に悪人に変わる」というような言葉の端々から、先生の過去を知りたくなったわたしだが、先生はなかなか過去を明かしてくれなかった。
ある日、父が病で倒れ、田舎に帰っていたわたしに、一通の手紙が届く。それは、先生からの遺書だった。

叔父一家に騙され、疑い深い性格になってしまった先生は、故郷を捨て、東京へ出た。
未亡人とその娘のお嬢さんのいる家で下宿させてもらった。初めは注意深く観察していたが、奥さんに「静かで大人しく鷹揚な方だ」と評されて、先生の「こころ」は静まった。静まると共に、家族と冗談を言い合えるようになった。次第にお嬢さんに惹かれていった。ところが、郷里の親友Kも同じ下宿に住まうようになると、Kにお嬢さんを取られるのではないか、また、お嬢さんもKに気があるのではないかという気がしてきた。
夏休みを利用してKと二人で旅行している時、Kに打ち明けようとしたが、タイミングを掴みかねていた。二人でお寺に寄り、住職の話に熱心に耳を傾けていたKは、先生の無関心な様子に「精神的に向上心のないものは馬鹿だ」と言った。
お嬢さんへの気持ちを打ち明けることができずにいたが、ある日、Kからお嬢さんに対する気持ちを告白された。「しまった、先に言われてしまった」。そう思った先生は、道学を貫こうとしているKに対し、「精神的に向上心のないものは馬鹿だ」と言い放った。
その時にKが返答した「覚悟」を誤解し、焦った先生は、奥さんにお嬢さんをくれるようお願いした。二人の愛が成就した数日後、Kは自殺。Kの自殺の原因が自分にあることは疑いようがなく、以降、先生は罪の意識を背負ったまま生き続けていたが、この手紙がわたしの手に渡る頃には、すでにこの世にいないだろうと書いてあった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 岩波文庫
感想投稿日 : 2021年7月15日
読了日 : 2021年7月15日
本棚登録日 : 2021年6月29日

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