貴志版SF、ここに完結。
上中下の三部作でけっこうなボリュームがあるため、読み始める前に抵抗があったけれどそこは貴志作品、上巻の中盤から下巻までページをめくる手が止まらなかった。物語に引き込むことが難しいSFものでこの吸引力はさすが貴志作品。
上巻、中巻で随所に散りばめられた伏線や謎が怒涛の展開に乗って解明される下巻。
人間のエゴ渦巻く新世界で、案外悪鬼戦が一番そのエゴをわかりやすく感じることができる。覚が死ぬことが嫌で最後の切り札であるサイコバスターを燃やした早季と、奇狼丸に悪鬼との相討ちを提案した早季だ。状況が違うといえばそれまでだし、そもそも後者は早季の中に棲む瞬の作戦なのだが、どちらにしろ早季は人間である覚や悪鬼が死ぬことに抵抗を感じはしても、バケネズミ、つまり異類である奇狼丸に同じ抵抗を感じることはない。実際あれだけ人間を虐殺した悪鬼に対し、彼自身に罪はない、野弧丸の育て方のせいだと死を悼む思想をみせても、人間に従い、助け、その命すら投げ出してみせた奇狼丸に対してはその感情がまるでない。かえって不自然なくらい奇狼丸に関して申し訳ないだとか、悲しいだとか、そういった種類の感情が削ぎ落とされている。その事実が強烈に痛く、またこの物語の根幹を指している。覚と奇狼丸、あの状況で相討ちしなければ悪鬼を倒せないという条件はどちらも同じ。しかし早季は一方を阻止し、一方には特攻を命じた。これをエゴといわないならばなんなのだろう。最後の最後、もし覚と奇狼丸の立場が逆であったならば、早季はあの提案をしなかった気がするのだ。
「あなたがたは、我が同胞の生命には、とんと関心がないようですから、あえて申し上げますまい」(P.415)
読了後、この奇狼丸の言葉が胸に刺さったまま痛くて痛くて忘れられなかった。新世界よりの世界観を一番シンプルに表現している言葉のような気がするからだ。
- 感想投稿日 : 2014年4月18日
- 読了日 : 2014年4月18日
- 本棚登録日 : 2014年4月18日
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