かべ 鉄のカーテンのむこうに育って

  • BL出版 (2010年11月10日発売)
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感想 : 24
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絵本の体裁ではあるが、大人向け。共産主義の社会が実際どのようなものだったかを、子ども(から青年)自身の立場で描いている。描いている現在はアメリカ在住の大人であるから、もちろんその視点も加わっている。
「チェブラーシカ」で、ピオネールが赤いスカーフを首に巻いて奉仕活動し、それを見たチェブラーシカが「ぼくもピオネールに入りたい」と憧れるシーンがあったが、実際にはピオネール参加も奉仕活動も強制であったこと(しかしジプシーの少年は入れてもらえなかった、つまりあからさまな差別があった)などが描かれる。密告を奨励し、資本主義は腐敗しているとの洗脳を幼いころから教育として受けるので、疑う気持ちなど微塵もない。『スターリンの鼻が落っこちた』と合わせて読むといいと思う。
この本ではさらに、どんなに政府が規制してもビートルズやストーンズやギンズバーグといった自由な資本主義文化が入ってきて、敏感な若者たちはそれを求めずにはいられない様子が生き生きと伝わってくる。
ジーンズは、初めは労働者の作業服という理由で許されていたが、欧米に憧れる若者が着るようになったら、西側諸国の退廃のしるしだと禁止されたとか、吹き流しの絵を描いたら、風はどっちから吹いているのか(西から東に吹いていたら西側のイデオロギーの侵入を認めたことになる)、政府に確認され、「君の風は正しい方向に吹いていた」と言われた、など、笑い話としか思えないようなことが実際にあったというのは、歴史の証言として貴重だ。
シス自身の幼いころからの写真や、作品、日記がふんだんに使われており、中身のぎっしりつまった大判のこの本が1600円なら安いと思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2016年11月2日
読了日 : 2016年11月2日
本棚登録日 : 2016年11月2日

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