世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド〈上〉 (新潮文庫)

3.83
  • (1934)
  • (1282)
  • (2666)
  • (100)
  • (20)
本棚登録 : 11130
レビュー : 1079
著者 :
banalstoryzさん  未設定  読み終わった 

「心」は「不完全なもの」であるがゆえに人は悩み、惑い、失ってはならぬものまでも失い続ける。しかしその「不完全さ」は有限の生を生きる上でも、無限の時間を過ごす上でも必要なものなのだ。

主人公(の一人)は人間の心の不完全さを、あるいは生そのものを肯定する。

「(心は)跡を残すんだ。そしてその跡を我々はもう一度辿ることができるんだ。雪の上についた足跡を辿るようにね」

だからこそ、自分自身を見失ってもなお人は過去と現在の同一性を信じることができる。同じ自分を生きることの不思議。過去・現在・未来において、連続した個人を生きることへの疑問。生きることは孤独への問いであり、答えそのものであるということ。

*

失ったもの、失いつつあるもののすべてはとりもどすことができる。なぜなら、失ったもののすべては各々の心の中にあるものだから。この物語の生の肯定の仕方が、非常に後ろ向きなものである理由はここにあると思う。個人という概念は結局すべてを自己完結にしてしまっているという、近代批判の物語なのだろうか?それとも失恋と、失恋を取り戻す再生の物語なのだろうか?
村上春樹が描きたいものは高度すぎて、その文章の意味や意図、メタファーの投げかけているものの半分も理解できない。それでも読むたびに少しずつ謎が解けていくような気がする。作品の抱える静謐な悲しさと合わさって、ぶっちぎりに切ないロールプレイングゲームをやっているような気分にさせられる。
いずれにしても、人間の心の機能についてこれほどまで迫った物語を他に知らない。

レビュー投稿日
2013年3月24日
読了日
2013年3月24日
本棚登録日
2013年3月24日
1
ツイートする
このエントリーをはてなブックマークに追加

『世界の終りとハードボイルド・ワンダーラン...』のレビューをもっとみる

『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド〈上〉 (新潮文庫)』のレビューへのコメント

まだコメントはありません。

コメントをする場合は、ログインしてください。

いいね!してくれた人

ツイートする