不干斎ハビアン (新潮選書)

著者 :
  • 新潮社 (2009年1月23日発売)
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感想 : 16
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 えー、不干斎、ハビアン。
 変な男で、桶狭間の戦いのちょっと後に生まれたらしい。で、臨済宗の坊主になって、キリシタンになる。イエズス会の思想的主柱となって「妙貞問答」なる布教用のテキストをこしらえたと思ったら女連れて棄教、晩年に「破提宇子」(提宇子・でうすを破す、の意)を著してこの世を去る。そういうハビアンの仕事を浄土宗のぼんさんがまとめた本。と書くとまぁだいたいあってる。

 ハビアンの仕事のすごいところは、当時において神道に仏教、儒教に道教をみんな並べて宗教比較して、そのあとで「キリスト教がいかに違うか」ということを説明したこと、で、死ぬ前にそのキリスト教さえも、結局は駄目ぢゃんということで棄てたあたり。つまりはそのなんだ、「根っから信仰する」というスタンスではけっきょく考えられなかったわけで、方々の宗教体系から自分に都合のいい部分だけをつまみ食いする「個人的宗教」のスタンスは現代人の個人的なスピリチュアル体験を先取りしたものであったろう、ということで。

 これを「現代人の特徴」というのかネ。いやむしろ、いろいろの宗教を俯瞰できたからこそ、実感のレベルで身にあう部分だけを抽出しえたんじゃないかと思うのです。日本人における宗教の「儀式性」とは逆の方向で、いろいろなパーツから精神的な安定を構築できればよかったんぢゃねえのかなぁとか、そんなことを思うのでした。
 宗教関連についてはまったくの無知蒙昧でありんすので滅多なことは書けないけれども、結局宗教の目的って、まぁ日常に苦がなくて生きていけるように自分が納得すればいいんじゃねぇか、というところに達せたのがハビアンだったのではないかしらん、と思うのでした。
 非常に痛快な人物のにおいはするのだけれども、まだそこまで、ハビアンの人となりのレベルまでは資料が無いらしいのでわかりません。

 もっと人物像が見えてくると、文芸的興味として面白いだろうなぁ、という一冊。書き手のぼんさんもがんばって軽くしようとしていて、ナイスです。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 宗教・哲学
感想投稿日 : 2013年7月3日
読了日 : 2013年7月3日
本棚登録日 : 2013年7月3日

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