播州平野・風知草 (宮本百合子名作ライブラリー)

著者 :
  • 新日本出版社 (1994年11月1日発売)
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感想 : 4
5

『伸子』『二つの庭』に続けて「作者分身」の歩みをたどる作品。

小説は「ひろ子」(作者分身)が、網走に収監されている思想犯の夫の近くに行こうと、北海道に渡るため福島の弟の家でその機会を待ちながら、1945年8月15日をむかえ、天皇のラジオ放送を聴くところから始まる。

戦争が終わったと喜びに沸くのではなく「その時村中が寂莫として音無し」という描写があり、さそぞかし複雑な気持ちだったろうと、わたしのように当時幼児だった者にとって臨場感を感じる。

「無条件降伏」の占領下でどうなっていくのか、ひろ子が夫のためにどう行動するのか。もちろん事実(宮本顕治と百合子)は周知のことだからそれを頭に入れて読むのだが。

終戦直後の混乱状況の中で、「ひろ子」と周りの家族や知り合いたちがどんな風に暮らしたか、ごくごく庶民的な日常の様子には、資料として目が見開かれる思い。夫の実家を訪ねるため、当時女性が群馬県から山口県まで列車に乗って旅をする描写は圧巻だ。

人がぶら下がって走るあの混みようの列車はわたしたち古い映像で見るが、実際列車が途中で止まってしまうのは当たり前、一駅を歩いたり、宿に泊まったりで乗り継いでいくのだが、臨機応変交渉次第で、たくましく生きた人々の姿に感心する。戦後すぐ(1945年の秋!)の焼け野原のなかを列車が動いているというのもびっくりだ。旅の道ずれの人々の姿(物資不足の貧しい姿や戦傷者)の描写もリアル、暢気さもあるけれども、現実の厳しさ、そして辛辣さもありでおもしろいというか、読みごたえがある。

ひとりの女性が自立して生きていくだけではなく、精神的に自律していく過程が『播州平野』の主題、同時に人間としての矜持、その屹立に感動する。

作者が文学として表す人間への​洞察力はさすが、文章は平明なんだけど。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 2022年
感想投稿日 : 2022年1月9日
読了日 : 2022年1月8日
本棚登録日 : 2022年1月9日

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