視覚、とくに色彩と、触覚、しかも体内の感覚に
秀でた文章がちりばめられた作品。
旺盛にその範囲を広げるニュータウン建設と、
成長期の少女との対比が見事。
そしてある意味、この上なくエロティックである。
ストーリーらしいストーリーは、あまり無い。
言葉にできない恋という病、
少年少女達の残酷な正義と政治、
その中で揉まれながら、必死に自分の「居場所」を探る
少女の心象を描き続けていく。
好き嫌い、見た目の美醜、ヒエラルキーの上下。
人は皆誰かと、何かと対比をすることでしか
自分の座標を定めることができない。
既存の価値観の枠から「外れよう」とすること自体が、
既存の価値観に縛られているからこそ、という現実を、
作者は容赦なく突きつけてくる。
だが作者の視線は、冷徹な傍観者では無く、
慈愛に満ちている、と感じられるのは何故だろう。
作者が自らを慰撫するような、くすぐったい愛。
最初から最後まで、そんなものが通底している気が。
最後の展開は、果たしてハッピーエンドなのだろうか。
いや、勝手にエンディングと思い込むのも失礼か。
矢沢や伊吹の日常は、これからも続いていくのだから。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
小説
- 感想投稿日 : 2019年12月9日
- 読了日 : 2019年12月13日
- 本棚登録日 : 2019年12月4日
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