中高一貫の全寮制の共学校。もうその設定だけで心がときめく。
そこに迫害され差別されてきた「緑の目」の人間たちの歴史をからませていく。一気に物語に深みが増した気がする。単なる学園ものではない、深みが。
総理大臣になること、を目標に掲げる少女茅森と、繊細さと独自の正義感を持て余す坂口の、長い長い青春と恋の物語。そこに、アイデンティティと差別と友情と同情と理解と共感と、それからあと何があったか…とにかく十代で経験するべきすべてのものがここにある。
オトナにはオトナの理論があり、正義がある。それは多分いつも、正しい。
けれど、十代には十代の、彼らにしか分かち合えない、譲れない、正義も間違いなく存在する。
眼の色が違うことや、足が不自由なこと、そういう被差別要因に対して、どうふるまうのが正しいのか。
坂口の橋本先生への嫌悪、綿貫との拝望会でのエピソード、その根拠。簡単に言葉で言い表せない違和感たち。そこからつながる茅森と紡ぎ続けたとある脚本。そのひとつひとつが美しくて尊くて、涙腺を刺激してくる。
いつの間に自分はこんなにも彼らから遠くへと来てしまったのか、と愕然ともする。
正しい事、正義、倫理。そういうものに圧迫され続ける今だからこそ読んで欲しい一冊。
読み終わった後、きっと、深く呼吸ができる。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
2020年8月
- 感想投稿日 : 2020年8月25日
- 読了日 : 2020年8月25日
- 本棚登録日 : 2020年8月25日
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