BUTTER

3.47
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本棚登録 : 2319
レビュー : 333
著者 :
べあべあべあさん 2017年4月   読み終わった 

ここにオンナの一生の全てがある。
母と娘の、父と娘の、女と女の、そして男と女の、愛と憎。
子どもの、思春期の、適齢期の、女としての価値とその揺らぎ。
シングルマザーの、働く女の、子を欲する女の、悩みと迷いと決意。
その全てを濃厚なバターでくるみ、これでもかこれでもかと突きつけて来る。
あの、木嶋佳苗の事件があった時、私は何を思ったか。なぜ多くのオトコがあの決して若くも美しくもないひとりの女に溺れ、そして死んでいったのか、と首をかしげたはず。なぜだ?と。
なぜこんな女に、と。そこに彼女を、そして男たちを見下す視線はなかったか。
この物語を読んでいる間ずっと、肌を突かず離れずの距離でなでる生温かい手を感じていた。気持ちよくはなく、かといって鳥肌が立つほどでもない、そのざわざわとした得体の知れない居心地の悪さは自分が木嶋がモデルの梶井真奈子にからめとられていく恐怖だったのかもしれない。
普段、自分のためだけに食事を作る事なんてほどんどない。外に出かける予定のない休日には化粧もせずだらしない時間を過ごしている。
私も「自分のために」何かをすることを放棄している女のひとりだった。もしもどこかで彼女と出会っていたら、間違いなくその圧倒的肉感的楽観的自己肯定感にひれ伏し、嫌悪しつつも飲み込まれていっただろう。もしかすると彼女から見放されることに恐怖し、ひたすら動かされる駒になっていたかもしれない。そしていつか彼女に興味を示されなくなったとき、この命を落としていたかもしれない。どこかでとどまらなければ、飲み込まれるなと自分を引き止める声を聞きつつ読んだ。おいしそうな料理の数々に恍惚となる、けれどその裏側に人間の恐ろしく弱い業が口を開けて待っている。
クチから始まりクチで終わる。自分を現実につなぎとめるために今日も私は料理を作り、そして食べる。

レビュー投稿日
2017年4月20日
読了日
2017年4月20日
本棚登録日
2017年4月20日
9
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