どこまでもどこまでも繊細な人たちの、生きることのつらさがこれでもか!とつまった短編集。
表題作は特につらい。つらいし痛い。心が痛い。
誰かに何かつらかったことを話せば、その話を聞いた人はその話を聞いてしまったことで傷ついたり悲しい思いをするかもしれない、だから人ではなくぬいぐるみに話をしよう、という「ぬいぐるみサークル」。もうここだけでこの物語に出てくる人たちの繊細さがわかるだろう。どこまで相手のことを考えているのか。
自分話すこと、自分がすること、いや、自分の存在自体が相手を傷つけたり、脅威になったりするかもしれない、と考えて自分自身悩み続け傷ついていく。つらい、つらすぎる、その繊細さが。
主人公七森くんは背が低くてかわいい。だから女性にとって「脅威」にはなりにくい。でも、それでも自分が男だというだけで女性にとっては脅威になるかもしれないと、悩み外に出られなくなる。
ほかの「友人」たちのように恋人を作ったり別れたり、簡単に恋ができたらいいのに。それができなくて、また傷つく。彼が安心して一緒にいられる麦戸さんの悩みは繊細ではあるけれどまだ現実的。そして七森くんに新しい一歩を踏み出せたきっかけとなった白城さんの存在が物語をぐっとリアルにしてくれている。
ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい。ちょっと変わった人たちのゆるくてほんわかしたおもしろ話かと気軽に手に取るとあまりの繊細さにページをめくる手先も優しくなる。
読み終わってから、この本を読んでよかったとものすごくものすごく思っている。
繊細さに苦しむ人にとって救いになるかもしれないし、ならないかもしれない。でも繊細さに苦しむ人が自分のそばにいるかもしれない、という繊細でない人にとっての提言にはなる。だから読んでよかったとものすごく思っている。
表題作以外の3編もみんな繊細さに苦しんでいる人、生きにくさを持て余している人の物語。みんなにぬいぐるみがあればいいのに。
- 感想投稿日 : 2020年5月6日
- 読了日 : 2020年5月6日
- 本棚登録日 : 2020年5月6日
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