紀州 木の国・根の国物語 (角川文庫)

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本棚登録 : 160
レビュー : 17
著者 :
なつめさん 日本 - 日記/書簡/紀行   読み終わった 

ルポタージュのくくりなのだけど、散文詩のよう。「○○である、△△である、ということは××だ」というキーワードのつながりが見つけられない。知らないことが多すぎて、文字にされていても白くつぶれて見える個所がたくさんある。70年代・紀州・部落差別・中上健次の抱えるオブセッションについて、自分は知らなさすぎる。

そんな風に情報が欠け落ちる「ルポ」は、地図の上にある和歌山県ではなくて、紀州を旅する中上健次が感知する「見えないもの」を写しとっていく。あの音楽的な文体に酔って、頭ではなくておなかで分からされる。でも、文章の波に乗りかかっては、「このままうっとり読んじゃっていいのかな」と落ち着かなくなる。それはやはり本書のテーマが部落差別であるからだ。

本書が発表された当時、やじうま気分で紀州見物に行った人はいなかっただろうか? 被差別部落として紹介された土地の人が嫌な目に合わなかっただろうか? すぐにそんなことを考えてしまう自分はうわべだけを見ているつまんないやつなんだろうか? 本の外にいる自分が巻き込まれる。同和問題をデータに基づいて解説する本を読むより、よっぽど揺さぶられてしまう。

差別・被差別の構造の根深さ(それはわたしたちの成り立ちの本当に深いところに組み込まれている)、暴力性、被差別者の持つ(とされた)力、妖しさ、それらに魅入られ生まれる物語、今そこで暮らしている人たちの苦しみ、誇り。紀州の圧倒的な緑と海を背景に、中上健次の幻視を通じてさまざまなことどもが、遠く近くににチカリチカリと光を放つ。

レビュー投稿日
2011年11月19日
読了日
2011年11月19日
本棚登録日
2011年11月19日
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