純粋さ、ごまかしの無さに打たれた。初めのうちは人物が多くてごちゃごちゃした印象だったけれど、物語が進むにつれて夫、妻、その母の三人に焦点が絞られていき、最終章は息をつめて、数ページ読んでは休憩を繰り返して読み終わった。書き手の思いがぎりぎりまで凝縮された、ずっしり密度が高い私小説。
たぶん信一はいろいろ気が付かない男で、松子はすごく我慢させられたと思う。でも彼は時間をかけて自分を省みたり、人の気持ちを考えたりできる人で、すごく大人だった。そんな大人が全身全霊をかけて人と向き合っていて、それが「貧乏で結核で妻が死ぬ」というテンプレどおりの話を、一等星の輝きを放つ名作にしたのだと思う。
瀧井孝作は車谷長吉の上流にいる人かもしれない。言葉遣いがちょっと似ているし、男の純情がよく伝わってくる。「ああこれは上手い手じゃないけど、愛なのねー」とときどき思った。
古井由吉の解説が現代の読者向けにわかりやすくてとても親切。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
日本 - 小説/物語
- 感想投稿日 : 2013年12月18日
- 読了日 : 2013年12月18日
- 本棚登録日 : 2013年12月18日
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