いろいろ気になる(さわる)ところを棚上げにして読み進めてみたものの、最終的にこれはまったく自分のための本ではなかった。全能感に包まれた男が子供の使いを達成するカタルシスはいらない。
口にするものにこだわりはないといいながらバラライカを注文してバーテンを試し、女性に対する評価は性的魅力に関することばかりな主人公にはなんの魅力も感じなかった(ドンナ・アンナにさえ男性から見てどうかを言わずにいられない主人公はほんとうに気持ちが悪かった)。そういう彼に年上の人妻やら美しい少女が心を開く理由がさっぱりわからない。そうだったらいいなという書き手の妄想の気配しかない。
そんな主人公が何も自分で選ばず周囲に後押しされて「がんばった」結果、病的にイケメン好きな妻が戻ってくる(だからそもそも妻が別れたがったのだって主人公のせいじゃない)んだからおめでたい。白いスバル・フォレスターの男も、免色も、穴と鈴も、彼が行って帰ってくるための道具にしかなっていない。妻の恋人の結婚失敗の理由を描いたくだりはとても下品だし(いくら脇役だからと言って、小説家があんな風に雑に人の人生を語っていいものだろうか)、とってつけたような東日本大震災のエピソードには呆れるしかなかった。
もう村上春樹とはお別れな気がする。わたしは年を取ったけれど、春樹はいつまでも15歳なのだろう。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
日本 - 小説/物語
- 感想投稿日 : 2017年4月2日
- 読了日 : 2017年3月31日
- 本棚登録日 : 2017年4月2日
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