もう死んでいる十二人の女たちと (エクス・リブリス)

  • 白水社 (2021年2月23日発売)
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本棚登録 : 391
感想 : 22
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みんながみんな本書を好きになるとは思わないのだけれども、今こういう作家がいて、このように世界をとらえて文章に紡いでいるのだということは知ってほしいという気持ちになった。パク・ソルメの呼吸に合わせてすべての短編を読めたかというと分からない。しかしイシューを保留にするのではなく手前で立ち止まり、そこから個人として見つめ続ける態度が、誠実で新しい。新しいというのは現在の作家をあまり読まないわたしにとってだけれども。

東日本大震災と福島の原発事故が素材になった短編で、行き来可能な隣国に起きたこととして、日本で何かが失われてしまったことを静かに悼む表現がある。がんばれ!とか原発はやめろ!とかの強い言葉を発するわけではなく、見ていてくれた人が外国にいたんだ、とほっとした。それと同時に、日本で現実に起きたことが出てくると、自分個人の思い出が強烈に割り込んできてしまって、フィクションとして切り離して読むのが難しいこともわかった。その短編と同様に、福島の事故にインスパイアされたとされるほかの2つの短編は、パク・ソルメの短編として読めたし、その架空の世界に漂う空気や人の感情をうまく想像できた気がする。フィクションだからこそ伝わる真実の実例を体験したように思う。

どこまでが史実でどこからが架空の設定なのかわかりづらい部分があるので、ひとつ読むごとに解説を確認するのがおすすめ。けっこう迷子になった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: その他の東洋文学
感想投稿日 : 2021年3月18日
読了日 : 2021年3月18日
本棚登録日 : 2021年3月18日

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