密やかな結晶 (講談社文庫)

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本棚登録 : 2377
レビュー : 318
著者 :
betchyさん 小説   読み終わった 

ひとつずつ、何かが消滅していく島の物語。
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「消滅が起こるとしばらくは、島はざわつくわ。みんな通りのあちらこちらに集まって、なくしてしまったものの思い出話をするの。懐しがったり、寂しがったり、慰め合ったり。もしもそれが形のあるものだったら、みんなで持ち寄って、燃やしたり、土に埋めたり、川に流したりもするの。でも、そんなちょっとしたざわめきも、二、三日でおさまるわ。みんなすぐにまた、元通りの毎日を取り戻すの。何をなくしたのかさえ、もう思い出せなくなるのよ」(p.8)
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元通りの毎日に戻るようで、実は、心の中で何かが失われてしまっている。自分でも気づかぬうちに。
そして、消滅したものについての記憶が消えない人たちを狙って行われる、秘密警察による記憶狩りも日常的な光景になっていく。

世界から何かが消え続けるということの、一見穏やかにさえ見える恐さがじんわりと沁みこんできます。
不条理ともいえる現実を受け入れるほかない主人公の密かな抵抗を軸に、サスペンスタッチで進む物語をたどりつつ、結末に希望が見出せることを願わずにはいられません。

フェティシズムな色合いを帯びた独特な世界と、消滅、というテーマはあまりにもしっくりきすぎていて怖い。
それでも、この唯一無二の雰囲気と切なさを味わってほしいという気もします。

レビュー投稿日
2013年3月21日
読了日
2013年3月21日
本棚登録日
2013年3月4日
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