黙って喋って

著者 :
  • 朝日新聞出版 (2024年1月31日発売)
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本棚登録 : 945
感想 : 25
3

18編もの短編集。短編より短い掌編。
作中の会話のひとことがタイトルになってる。読み終わってタイトルをながめると、その会話のシーンが浮かぶ。
日常の何気ない会話、何気ない日々、その中で私達は何かを察したり、感じたり、雰囲気に乗って伝わってくるものを受け取っている。
ヒコロヒーって、こんなに繊細な人なんだなって、とても驚いた。サラサラ流れていって気にも止めないかもしれないことを、丁寧にすくい取って、そして言葉にしている。
それらは、あっ、私にもあった!!と思うこと。「この感覚わかる」なのか、「この感じ知ってる」なのか、自分の気持ちの流れがふと変わる瞬間みたいな、「あっ」ていうもの。。。読み手の年代がどこであっても、この感じはきっと伝わる。これが実体験じゃなくて創作だってのが、ほんとビックリ。ハンパない想像力。
ただ、18編もあって、似たようなテイストだと、ちょっと中だるみみたいになるなあと思った。

全てに登場人物の名前がしっかり設定されてて、その名前がイマドキな感じもして、
コスメやファッションもおしゃれで、今ってものをとらえてるなあと思った。

「黒じゃなくて青なんだね」これは、好きというか、胸の隙間からジワジワ入ってくるみたいだった。
遥希(はるき)を中心に回る自分の時間。
彼の好きな曲、彼の好きそうな服や髪型、
ブラックが飲めない彼のために牛乳を常備し、ないときはコンビニに買いに行き、彼が欲しがってたスニーカーを買うために何時間も並ぶ。連絡があればいつでも行く。
遥希と瞳の会話が、会話になってない。
自分の言いたいことだけ言う遥希に、瞳の言葉は遮られていく。
「彼が好きそうかどうか」が瞳の全ての判断基準になっていく。喜んでもらいたいという気持ち、可愛いと言われる喜び、好かれたいという必死さ。これは、過去にいた私だ。。
ちゃんと考えたら、これじゃあ本気では好かれない。だけど、若くて経験なくて、彼に落ちてしまうと、そうするしか思いつかない。いてもたってもいられずどこにでも行く。
会おう、じゃなくて「会ってもらいたい」みたいな。こんな頃、あったな。。。と思う。
いつからか、彼氏がいてもちゃんと自分の好みで物を買い、自分で行動できるようになった。どっちがいい?なんて聞いたとしても、最後は自分でこっちと決められるようになった。彼氏が全てではなくなった。彼は好きだけど、「彼だけ」が好きなのではないと気付いたのよね。。。。
昔、あの頃の、すがるような目の必死な私は、ちょっと哀れで、ちょっと切なくて、でも愛しいなって思う。
忘れてたあの頃の私を見てるようでヒリヒリした。


「大野」これが1番好きかな。読んでて人には優しさの表現が上手い人と下手な人がいるってのを思い出した。気持ちはほんとは優しくないのに頭で考えて表現するのが上手い人もいる。
作中の大野は、料理を半分にして大きい方をくれる人。マリの彼氏は、どのぐらい食べるか聞いてから取り分ける人。
これって、大野は優しさで、彼氏は作業だよなーと思った。
大野は、泣いてるマリの顔をおしぼりで拭いてくれる。彼氏は店員にティッシュもらって
数枚を出してくれる。
これはどうかな、大野はガサツかな。笑
そして私は想像する。風邪ひいて寝込んでる私に、何か欲しいものある?と聞いてから買ってくる人と、黙って思い付くままあれこれ買ってくる人。こうなると好みかな。笑
でもまあ、大野で良かったね。

「覚えてないならいいんだよ」
あー、これだな。黙って喋って、の、喋ってはこれだ。ちゃんと言えばよかったのになあ。

この本は、短いから成功してる気がした。
どれも最後には自分で立って歩いていこうとする女性の姿だと思った。
そのへんは、いつもジャケット着てるヒコロヒーの、ちょっと気だるそうだけど自立してる感じに合うなと思った。
いい本です。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2024年4月17日
読了日 : 2024年4月4日
本棚登録日 : 2024年4月17日

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