空の境界(上) (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社 (2007年11月15日発売)
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空の境界
令和1年6月11日
空の境界と言う物語の良さが私にはわからなかった。
所謂、同人小説の中で話題になっていたらしいものの、流行や流行りに疎い私としては、まるで全く刹那的な衝動感を現実的に感じるポストモダンの後裔と言うものがさっぱり理解できなかった。

本作の熱心なファンには失礼な話で有るものの、タイトルの名前からして「からの境界」ではなく、「そらの境界」と思っていたほどで、ライトノベル的な青春的な響きを持つタイトルなのだなと、思っていたぐらい。

ポストモダンの後裔で、尚且つ刹那的な衝動感を現実的に感じる様な肉薄感を文字として読む事が出来たとしても刹那的な衝動感を現実的に感じる事が分からなかったのだ。

ポストモダンの後裔の新作家らによる作品群は「起点と結論が一致しない純文学として如何に物事が空思想であるのか?文体として読ませる立場」にあるものの、現代純文学自体が衰退し、ポストモダンが高齢化したまま勝手に空転し続けたままで、そこから先が全くなかったという時に、本作の熱心な読者にとっては都市の中での衝動的・刹那的な空虚な観念の倒錯を是とする様な新しい小説は肌身に感じる様に熱狂的に迎え入れられたであろう。

剣道の型で日本刀が乱舞する世界に在っては、本作の主人公・両儀式が持つ高々knife程度に己を託す矮小さを恥じて、ちっぽけな存在の決してちっぽけでは無い自分自身の狂気を表わしたのだろうと思うと、それが合う人にとってはとても肌身に感じてマッチングをするのであろうと思うとき、都市の中で孤立した街露を彷徨う青少年(FtM・MtFやminority)の刹那的な気持ちが描かれている様に思える。

ポストモダンの空虚さと言うものが、ぐっと身近に肌身に感じられる様な反動が来ていたのではないかとする時に、本作をreal timeで読んでいた愛読者は、矢張りポストモダンの立ち位置に懐疑的でもっと強い瞬発的な意思を持っていたのだろうと思う。

拙い表現では上手く、言い表わす事の出来ない、空虚さと刹那的な衝動感を肌身に染みて文字に表わしたものである時に、読後年数が経って物事を俯瞰して考えられるようになってから初めて読後の後味を噛み締めている様なものであった。

ライトノベル・ジュブナイル小説の体をとってはいるものの、文学史の中で行き詰ったポストモダンの立ち位置をもう一度、都市の中での孤独で単立化した自分自身を再自覚させる比較的高齢の大人の読み物である時に、本作の良さが分からなかったのは、その当時に懐古調の三島文学を読んでいたからなのかもしれない。

「張りつめた様なリアルな空気感の現代文学」と言うものと「古典調の文学」との間には、時間と言う隔絶した壁の様なものがあって、「同人世界における共同幻想の維持」と言うものに疎かった私には、ポストモダンの後裔のその先の作者らの提唱する空思想の別文体化のそれの何処が良いのかまるで全く理解できなかった。

都市の中で人知れず孤独に抱える人間の持つ獣性を今一度取り戻そうとした野心的な試みがポストモダンの後裔のその先である時に於いて、古典調の文学読者らとは別に現代文学の先端は別に新しい世界観を模索する為にもがいていたのだと思う。

だからこそ、都市部の中で狂気を託する凶器は「高々knife一本」であるし、「万能なほどにknife一本に己自身を託さねばならない、追い詰められたような状況の時」に「真に肉薄して如何に物事が空であるのか?」と言う事を文体によって表現しようとしたものであるように思える。

純文学ほど「中身が無い」と言われるのは、私達が物語調・古典調の文学に親しんできたからであって、純文学ほど空思想を別文体で表す事が出来るか?と言う課題と向き合わされている事に気が付くと、幾ら純文学と言われる様な物を読んでも肝心な中身が無い事を文章で表わしているだけのものであるので、全く以て物語の起承の帰結が無いままに中途半端に終わってしまうという事を理解できずに小説と言うムダ金を使ってしまう。

ちっぽけなknife程度の鋭さが哀れでしかならない。
そして、それこそが紛れも無い矮小な私達の存在そのものである時に、そのちっぽけなknifeが未来を開闢する僅かな希望でしかない。

雑多な繁華街の露頭で猥雑な小さな情報の一つの様なものでしかない時に、それが「たかが小説、されど小説」と言うものを新しくきらりと光る様に書かれたからこそ、一部の根強いファン層がいるのも分かるというもので、空転し続けるポストモダンが齢老いて醜くなった後に、青少年にとってのrealityを伴って現れたものであるとすると、一部で評価が高いのも理解できるというものである。

そこに於いては、現実の現実感の無さがより個々人に突き付けられる形で、世界にとっては何でもない私達にとって、世界観の中にとっての何かであると定義付け様としたのでは無いのかと思う時に、本当の面白みが見えてくるのだろうと思える。

読書状況:未設定 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2019年6月11日
本棚登録日 : 2019年6月11日

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