だんだんこういうことを言ってくれる人が多くなってくるのではないかと期待している。すぐに役に立つスキルが注目されていたし、今でも半分そうか。技術研究をすぐにビジネスに結び付けられるものはないから(金にならないから)もっとすぐに成果のでることをやりなさい、みたいなことを15年前くらいに上司からも言われた。しかしこれからは、研究という知識創造を企画・遂行できるスキルを持つ人が活躍できる世の中になっていくだろう。AIやChat GPTを使って仕事をしていくときに理工系の自然科学、技術だけでなく社会学、人文科学においてもそうだ。「自調自考」を校訓に掲げる学校もあれば、知的創造の方法に関する大学講義のカリキュラムとしてこの潮流は顕在化してきていると思う。筆者は物理学者なので特に理論と実験で実証していく研究の立場をとる研究領域なため、実験をやる学問であれば読者は作法を身に着けやすいかもしれない。
この本を読むと科学的な思考や作法、研究者の行動特性がどんなものかについてはほとんど言及がない。5章まではほとんど筆者のエッセイでちょっと肩透かしをくらった気がしなくもない。まぁ大学で研究生活を送るとこんな感じだよ、という雰囲気はよく分かる。私も恩師から教育された研究姿勢との共通点もいくつかあるので、読者はスキルセットだけでなくマインドセットも学べるのかもしれない。それをスローガンにして言うなら「見解はデータをもって語れ」である。5章まではあまり科学的であることが武器に見えないが、6章で「科学的」がどんな形で武器になっていったかを説明していることでおおよそ分かることになるので、なるほど伏線回収しているのかぁ、と感じることになるだろう。大学院生の学生の息抜きとして、学位(特に博士号)をもつことがアカデミア以外の仕事にどう役に立つのかを考えることには有益だろう。ちなみに私は商品企画の仕事をしている。武器と言えるほど強みになっているかは疑問だが、研究計画の立て方が商品企画と通ずるところがあってそれなりに仕事を楽しめている。楽しく仕事をするために、もっとアカデミアの新鮮な風を入れて仕事をしてみるのもいいかもな。
- 感想投稿日 : 2024年11月16日
- 読了日 : 2024年6月18日
- 本棚登録日 : 2024年5月26日
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