シズコさん (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2010年10月1日発売)
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本棚登録 : 988
感想 : 122

佐野洋子さんの本は読んだことがなかった。
彼女が描くイラストの目がなんとも怖くて、絵本すら読んだことがない。
あの名作といわれている『100万回生きたねこ』すらも。

だから、佐野洋子さんのことは、失礼だとは思いつつも
「アノ谷川俊太郎をオトした女」として記憶していた。

お亡くなりになってやっと読む気になった。
違う世界へいってしまった彼女が描いた目を見ても怖くなくなったから。

で、本書。すごい本だった。


簡単にいうと、
佐野さんと実母(表紙に描かれたどろりとした視線の女性)との確執が書いてある。
「確執」なんて言葉もかわいく見えてくるくらい、
それはそれはもう辛辣に手厳しくばっさり自分の母親を切り捨てている。


小説なのかエッセイなのか、
同じ話、同じ文章が何章にもわたってくりかえされる。
まさに恨み節を何度も愚痴られている気分にもなる。


だけどその文章、その世界は、
まるで柳原可奈子の下ネタのように、
ギリギリのところで踏みとどまり、「芸」へと昇華するのだ。
(例えが変かな・・・)


母を筆頭に父、妹たち、弟たち、弟の嫁・・・
佐野さんの手厳しさは身内全員に向けられる。
いろいろ世話になり、ウマがあったはずの叔母(母の妹)すら、
「(母にくらべて)情が深く、でも情しかない」と切り捨てていた。
いわく自分の母親は家族に愛を見せない反面、他人への愛があった。
叔母は家族しか愛せない。


「それでいいんじゃないの?」という声も聞こえてきそうだけど、
わたしは佐野さんの言いたいことの方に共感できちゃった。
大震災以後、ツイッターやブログなどでちらほら見られた
「我が子を守る!」的発言からにおってくる違和感の素を
掘り出した気がして、ヒザを叩いたものだ。
そして佐野さんはなんて深い目で人間を見る人だろうと
感心してしまった。


愚痴と共に母の一生を的確に描き、
終わりに近くなってきて、現在の佐野さんが認知症の母と
1つのベッドに入ってする会話はやっぱり心が震える。
佐野さんは母を許す。
よかったな、と素直に思えた。

だって、
最初から最後まで、佐野さんのきついこきおろしの文章の中には
「母さん、愛してる。母さん、愛して」って言葉が含まれているように
感じられてならなかったから。


読了後、
わたしの中で佐野洋子は、ただの佐野洋子となっていた。
また彼女の本を読もうと思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2011年9月17日
読了日 : -
本棚登録日 : 2011年9月17日

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