お気に入りの一冊になったと思う。自分の才能の平凡さを認められない画家や、報われない恋に独り相撲してしまう女性などといった、端から見ていると気ぜわしくなるような人達ばかりが出てくる。作品はいずれも悲観的な内容なのだが、読み終わった今は満足感と、夢中になった物語を読み終えた後にいつも感じる一抹の寂しさとを、感じている。
確かに、作品に出てくる登場人物たちは皆どこかで、愚かな一面を持っていたり、不運な出来事に巻き込まれ続けてしまっている。読んで楽しくなれるような作品ではないのかもしれない。けれども、市井で生きる薄倖な彼らの描写はとても人間臭く、ギッシングの明瞭で静謐な文章も相待って、愛おしさを感じた。
この小説は、純文学というよりは、大衆小説の部類になるのだろうか。この本のように、平々凡々な人々を描いた物語が好きだ。チャールズ・ディケンズに似た作風だろうか。読み比べてみると面白いかもしれない。
この短編集の中で、とりわけ気に入ったのは、「くすり指」「ハンプルビー」「クリストファーソン」の三つである。「くすり指」の最後の描写は、ケリン嬢の心情を細かく描くことなく、淡々と彼女のこの先の予測される生活を述べるだけにとどまっているが、そのためにむしろ、味わい深い最後になっている。
ハンプルビーのような少年に関する話を、以前読んだような気がするのだけれど(漫画だったかな?)、正確には思い出せない。「家庭の天使」ならぬ「ハンプルビー」が、僕の心の中に棲み着いてもらいたいと思っている。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
純文学
- 感想投稿日 : 2020年8月23日
- 読了日 : 2020年8月23日
- 本棚登録日 : 2020年8月23日
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