「林蔵の貌」とも微妙にリンクする、江戸中晩期モノ三部作の一つ。
時期的に「楠木正成」等残照感溢れる、「武王の門」以来続いたアツ過ぎる歴史ハードボイルドに食傷気味だった時期に敢えて読まなかった一作なのだが、刊行当時に読まなかったのが非常に悔やまれた。
国家権力に「ことば」と「正義」で立ち向かおうとする大塩平八郎、父の苛烈すぎる「知行合一」と漠然と拡がる現実と大阪の底深く沈む闇との間で苦悩する息子の格之助の相克、そして独りの男として、たった一人の友として、剣を通じて友を救いたい主人公・光武利之の揺れる想い。
さらに、脇を固める内山彦次郎の利之や格之助に対する「悪党にも善人にもなれぬ屈折した想いと憧れ」、そして仙蔵やお勢や居酒屋・数田屋の親父との血の通った、形は違えども心の通った「繋がり」。
そしてそんな想いや暖かさを嘲笑うかのように背後に見え隠れする「国家権力の闇」、そして捨て身の大塩親子の決起すら権力闘争の都合のいい道具にされ、そこに残ったやり場のない虚無感。
後の刊行となる「水滸伝」にもテーマが繋がる、人の温かみのある「ハードボイルド」、そんな新機軸が滲み出た一作です。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
肉を喰らい◯を放つ系
- 感想投稿日 : 2010年11月6日
- 読了日 : 2010年11月6日
- 本棚登録日 : 2010年11月6日
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