気候科学の冒険者 ~温暖化を測るひとびと (tanQブックス 5)

著者 :
  • 技術評論社 (2009年12月5日発売)
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東京大学気候システム研究センターで行われたサイエンスカフェの内容をゲスト・司会・一般参加者による対話・質問応答形式で紙上に再現した書籍。
司会者は同センター長の先生。ゲスト(講演者)は同センターでの地球温暖化に関連する気候モデル作成に様々な分野の専門家として携わってきた先生方。専門分野の研究内容を温暖化にからませて解説されている。とはいってもよくある市民向け講義のような堅苦しさは感じられない。ゲストと司会者の対話形式で話は進み、時には”身内”同士の昔話に花が咲く。参加者からの質問もポンポン入る。第一線の研究者と市民がその垣根を越えて雑談のように科学について語り合う。これがサイエンスカフェのコンセプトなのだ。
本書に登場される「気候科学の冒険者」たちはいずれも世界レベルの研究者。だが実は本書の中の対話の半分ほどは研究者の「人間」部分に関する話だったりする。第一級の研究者たちはなぜ今の専攻を選んだのか、研究での苦労、気候システム研究センター立ち上げ時の裏話など。無機的な印象を持ちがちな科学だが、その担い手である科学者は当然ひとりの人間なのだ。
有意義なコミュニケーションは相手の”顔”を知ることから始まる。科学者と市民の信頼関係を紡ぐことがサイエンスカフェの意義であるなら、なるほど実際に参加した人は科学者の”顔”が分かるというものだが、本書はその科学者の「人間」部分に特にスポットを当てることで読者にその追体験をさせることを意図しているのではないかと思う。
職業科学者への社会的な不信感が高まりつつある昨今、科学者、市民がともに歩みよるには、大人同士の堅苦しい場ではなく、サイエンスカフェのような場がふさわしいのではないか。
本書はサイエンスカフェのもつ意義を体現し、自分も参加してみたいと思わせる軽妙で見事な著作である。気候システム研究センターのサイエンスカフェではアルコールも出るという。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 気象学・大気科学
感想投稿日 : 2012年9月12日
読了日 : 2012年9月11日
本棚登録日 : 2012年9月11日

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