終戦後、日本人の去っていった朝鮮半島では
南北にふたつの政権が分かれ、長くにらみ合うことになったが
そのころ、南の済州島でも、また別の厄介な問題が持ち上がっていた
一部住民が独立運動を開始したのだ
これに対して米韓のおこなった弾圧はやがて
四・三事件と呼ばれる大虐殺へ発展していった
金石範は在日朝鮮人の立場から
事件へのこだわりを小説にしたためてきたのだが
その文章は固いリアリズムで
くだくだしい一文のなかに時系列が錯綜したり
また感情の先走るせいか、あまり適切とは思えないレトリックが出たり
要するにまあ読みにくいんだけど
かえってそれが、時代に翻弄された人々の実感を思わせる
「看守朴書房」
日本統治の時代は、召使いのような仕事で食ってた朴書房
戦後、済州島にわたって留置場の看守に出世した
出世したはいいが、彼は童貞だった
留置場には、パルチザンの家族たちが集められ
スパイ容疑で処刑される日を待っていたのであるが
その中にいるひとりの若い女に、朴書房は惚れてしまった
「鴉の死」
主人公は済州島の出身だった
英語ができたので、通訳として米軍に勤務するようになった
しかしやがて済州独立運動がはじまり
パルチザンになった友人と密通するようになった
スパイである
ところがある日、現地警察の処刑場に立ち会わされ
かつての恋人が両親もろとも射殺される現場を目撃してしまった
独立運動なんてしなければ彼女まで巻き込むことはなかった
彼は自らの立場に限界を感じ、ある行動に出る
「観徳亭」
大量虐殺は終息を迎えつつあり
「でんぼう爺い」は警察からの仕事を失った
素性がわからないパルチザンの首をもって市街を練り歩き
関係者のタレコミを募る仕事であった
しかし、天涯孤独でガクの無い爺いには
それがいかに恥ずべき行いであるものか、わからなかった
「糞と自由と」
内鮮一体、一視同仁
すなわち日本と朝鮮半島は一体であり
すべて皇国臣民として平等なのだ、とされる時代があった
もちろんそんなものはタテマエ論でしかない
同じ時期
国外では「民族主義」の金日成が排日運動をおこなっており
朝鮮プロレタリアートに希望を与えていた
そういったわけで、強制徴用の蛸部屋からは脱走が絶えなかった
これは、汲み取り式便所のなかをくぐって逃げようと試みる人の話
「虚夢譚」
おれのはらわたがヤドカリに食われちまった
そんな奇妙な夢を見て
かつての宗主国に、今なお暮らしている人が
自らのレゾンデートルに思いをはせる
表題はコムタン(朝鮮の内臓スープ)に引っ掛けた駄洒落かしらん
- 感想投稿日 : 2019年3月19日
- 本棚登録日 : 2019年3月19日
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