雪あかり 曽野綾子初期作品集 (講談社文芸文庫)

著者 :
  • 講談社 (2005年5月11日発売)
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4

「鸚哥とクリスマス」
善人でございといった顔をして
敗戦後の日本をのうのうと生き延びている人々
ラジカルで感じやすい若者たちに言わせれば
それはよほどの悪党か
鈍感な馬鹿ですと自己紹介してるようなものだった
そんなアプレゲールの時代に
そういう許婚を持ったことが耐えられない
しかも相手が本当の善人であるだけに、なかなかそれを言い出せず
婚約の解消も延ばし延ばしになっていた
そういうお嬢さんの話である

「遠来の客たち」
箱根のホテルで、米軍関係者を案内する仕事に携わっており
英語が上手いので重宝がられているお嬢さん
彼女は、性格の優しい軍医に好意を持っていたが
粗暴で理不尽なところもある隊長に、何も言えない彼の気弱さを見て
おおいに幻滅する

「海の御墓」
戦前、国際法の学者として日本の外務省に招聘されたが
日本の自由に肩入れしすぎたため
自国籍を剥奪されてしまった英国人の話
アメリカを毛嫌いし
そのために妹の寿命を縮めた後悔はあれど
晩年は理解者に囲まれる
ラストシーンは一見虚無的ながら
ヒューマニズムに裏打ちされた手触りがある

「雪あかり」
婚期を逃した女と男が
なんとなくつきあい続けているのだが
互いに結婚するつもりなんかまるでないという話
なんでそんなことになってしまっているのか
この作品では、母の古い価値観と、現代社会とのあいだで板挟みになり
疲弊して無気力へと陥った男の様子を窺わせている

「身欠きにしん」
自分はぜんぜん大したことのない人間だという
自虐的自己認識を得ていたおかげで
見た目はアレな上に面白味もなく
堅実な性格だけが取り柄の男と結婚してしまい
それでいつしか気づいたら
郷土の偉人を支える妻ということになってしまっていたのです

「蒼ざめた日曜日」
世にありふれたフェイク(偽物)をめぐる四つの物語
偽金づくり
社会にあわせて自分を偽る女
義眼の少年
落ち目の劇作家、など
人々は真実に憧れ、怯え、あざ笑い、また嫉妬する

「冬の油虫」
夫との精神的なすれ違いに妻は不満を持っている
しかし夫はそのことにまるで気づいていない
という話

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感想投稿日 : 2019年11月29日
本棚登録日 : 2019年11月29日

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