クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社 (2008年4月15日発売)
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本棚登録 : 4817
感想 : 448

初めて読んだ西尾維新の本。
これがデビュー作ということですが、ここそこに散りばめられた古典からの引用などを読むと、本当に20歳で書いたの?!と驚き。

特筆すべきは登場人物の際立った「キャラクター」ですね。こういう文芸のジャンル(ライトノベルとか。)には疎い私ですが、一読して思うのはやはり、キャラクターの「ベシャリ」でぐいぐい読ませる筆力でしょうか。

情景の描写(リアリティ)、言葉の象徴性(シンボリシティ)、行間を読者に想像させるような寓意性(イマジネーション)。
そういった”表現の奥行き感”をすっとばして描かれたストーリーは、いわば小説よりも落語などの「語り」に近い印象を受けました。

それがライトな感覚であるかどうかは評価する読み手次第ですが、ともかく私は「美味しい読み物」として読みました。

ミステリとしてどうかと問われれば、クビキリという題目からしてあまり新しいものではないでしょう。けれども、それはゼロ年代以降のミステリ、いやミステリのみならず文芸のあらゆるジャンルで起きている「ネタ切れ」の結果でもあるでしょう。

ネタ切れの先にあるもの。つまり今、材料は出揃っていて、それをどう料理して「美味しいかどうか」が問われる時代だと思います。

古典を引くことが特権的なことでなくなり、また巨大なアーカイブとしての図書たちが誰にでも開かれ、おびただしい本が出版され読まれるこの時代、キャッチーでポップでキッチュな小説を誰もが求めていると思うし、少なくとも私は文字を追う快楽に圧されてべろべろです。

本を読み終えるまで半日の間、存分に味わえるエンタメ。そういう本を送り出してくれた作者に、ただただ感謝。2017年のいま、そしてこれから、甘い蜜を吸い放題の時代に産まれてきたことに、ただただ感謝。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ライトノベル
感想投稿日 : 2017年4月3日
読了日 : 2017年4月1日
本棚登録日 : 2017年3月25日

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