『成瀬の一挙手一投足が尊い』
主人公・成瀬あかりの中2から高3までを描いた疾走感あふれる青春小説。子気味良いテンポで淡々と進んでいく。それでいてウケを狙っているわけではないのにクスッと笑える。このシュールさこそ本作の魅力。たまらない。
まず成瀬あかりという人物を紹介しておこう。滋賀県大津市出身の中学2年生(のちに高校3年生まで成長)。成績優秀。物怖じしない。マイペース。中学では陸上部、高校ではかるたに傾倒。200歳まで生きることが目標(?)。M-1グランプリを目指す(??)。急に坊主頭にする(???)。クラスではちょっと浮いた存在で、悪意を込めると変わった子。だが、言葉を文字通り受け取る素直な子でもある。この尖ったキャラクターが、なぜか愛おしくてたまらないのだ。
本作は6話で構成される。1~5話までは成瀬の幼馴染・島崎みゆきをはじめ、成瀬を取り巻くキャラクターの視点から描かれる。ここで読者は成瀬という突拍子もない人物を目の当たりにする。そして満を持して最終話で初めて成瀬視点の物語が綴られるのだが、最後の最後で成瀬の人間味が垣間見られてグッとくる。なんてハートフルな作品なんだ。
1話目の「ありがとう西部大津店」は新潮社の新人文学賞・女による女のためのR-18文学賞で史上初の三冠を達成。つまり本作は著者・宮島未奈さんのデビュー作である。宮島さんは大津市在住。なお西部大津店は2020年8月に本当に閉店しており、そこから着想を得たという。著者の思い出がたっぷり詰まった作品であり、行ったことのない大津市のことも好きになってしまう。
意味がないと思われる行動に意味を持った時、人は手のひらを180度返す。本作ではそんな感動を味わえる。バカらしいことを大真面目に全力で振り切っているから面白いのだ。琵琶湖のようにキラキラした、パワーたっぷりの青春応援ストーリー。成瀬はきっと200歳まで生きるので、この物語はまだ序章にすぎない。成瀬の一挙手一投足が尊い。たぶん明日も明後日も成瀬のことを考えてしまうだろう。
- 感想投稿日 : 2023年3月15日
- 読了日 : 2023年3月14日
- 本棚登録日 : 2023年3月12日
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