レニングラード封鎖 飢餓と非情の都市1941‐44

  • 白水社 (2013年2月16日発売)
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5

サンクトペテルブルグを訪問するにあたり、その歴史を何一つ知らずには行くべきでないという思いもあり、分厚く重厚そうな本書にやや抵抗はあったが思い切って手にしてみた。

何より、こんな悲惨な凄惨な事実があったことを全く知らなかった自分を恥じた。
結果として、ドイツ軍に包囲されたレニングラードを、ソ連軍は900日近い包囲をなんとか耐え忍び解放させるに至ったわけだが、その裏に、百万人以上とも言われるレニングラード市民の大きな犠牲があったことは、巧妙に伏せられてきたのだという。
もちろん、レニングラードを兵糧攻めにすべく画策したドイツ軍が元凶ではあるのだが、当時の指導者たちの無能ぶり、つまるところはスターリンの指揮がその凄惨さを加速させたと言ってよさそうだ。
数百万人の市民が陥れられた状況は悲惨という以外なく、あまりの壮絶さに何度読むのをやめようと思ったことか。
考えられるかぎりの極限の中で、それでも人としての尊厳を失わず、立ち上がるのが精いっぱいの足で歩き、他人を助け、協力し合い励まし合い、街をきれいにし、本を読み、絵を描き、芸術を忘れなかった市民たちのその崇高さが、にわかには信じられないくらいだ。
だが実際に、人々はそのようにして地獄を生き抜き、封鎖を打ち破った。

人間の底力を深く感じさせられるとともに、戦争の愚かさを改めて思い知らされた本書であった。

サンクトペテルブルグでこんなことがあったなんて。
ネフスキー大通り、ネヴァ川、エルミタージュ美術館、幾度となく目にしてきた名前だったが、実際に行って目にしたとき、何か別の感慨がわいてきそうな気がする。

余談。
たまたま今日、予約していた『脳に刻まれたモラルの起源』を手にし、プロローグをぱらぱらと読んでいたのだが、そこに「人間の行動は、必ずしもそれが自己の利益に結びつかなくても、困っている人を見ると助けてあげたいと思うような、合理的でない損得勘定では割り切れない倫理観や道徳感情に突き動かされることがあり、それは生物学的進化の結果、人間の脳と遺伝子に組み込まれている働きである」といった記述を見つけた。
レニングラードの人々も、絶望の淵まで落とされて、でもそこから這い上がってこれたのは人と人との繋がりがあればこそだったのだ。
自分の利益のためでなく生きる、そこに人間の底力のヒントがありそう。
『脳に刻まれた~』を読むのが楽しみになってきた。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説以外(エッセイ・ノンフィクションなど)
感想投稿日 : 2013年8月15日
読了日 : 2013年8月15日
本棚登録日 : 2013年8月5日

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