戦争が遺したもの

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レビュー : 22
ぼくさん ノンフィクション・学び系   読み終わった 

私は学生の頃全く本当に勉強をしなかったので、今の政治というものをよく理解しておらず、ちゃんと理解してニュースとかちゃんと見たいなあと漠然と思っていた。…でも仕事でもなんでもそうだけど、私は『話を途中から理解する』という頭の賢さを持っていないので、今の政治を理解するには戦後の様子から知らないと、きちんと理解できないのでは?と思い最近超スローペースで、自分が気になった戦後に関する本を読んでいる。この本もその中のひとつ。内容はというと、戦後世代で、団塊世代にあたる上野千鶴子氏(昭和23年生まれ、フェミニスト)、物心がついたときには高度成長の最中だった(ファミコンブームが20歳の頃)ベイタウン世代の小熊英二氏(昭和37年生まれ、歴史社会学者)の2人が聞き手となって、大正11年生まれで戦争を実体験している鶴見俊輔氏(哲学者)自身の戦中からの話を聞くというもの。鶴見氏を含め、3人共いわゆる『エリート』な人たちなので、戦中、戦後ともに政治家や学者、思想家などの『知識人』の思想や事件を中心に話は展開されていく。

…ので、ハッキリ言ってついていけない話だらけ!とほ。でも最近ちょこちょこ本を読んでいるおかげか、この本自体が堅苦しい&難しい文面ではなかったせいか、ぼんやりと理解できたように思う。…でもぼんやりでも自分の中で「おおっ」と思う話やフレーズがたくさんあったので、すごくよかったし、これから勉強する上の知識としてもすごく参考になった。ちょっと賢くなったような気もするし(笑)。

まずこの本でよく出てきた言葉が『一番病』。学校でも政治でも“一番を目標”をするため、自分のオリジナルの意見を持っていない、考えを0から組み立てられない人が、日本にはすごく多いということ。その上、世の中やまわりを見ながら自分が上手に立ち回る賢さを持っているから、意見がころころ変わり易い。そういう人が世の中を動かしていることが多く、それは戦前も戦中も戦後もあまり変わらないらしい。戦争がはじまる前は『戦争反対派』として戦っていた人が、戦争がはじまった途端『戦争大賛成!』とか言ってたりするし、戦後から今までのなかでも『左の人』があっさり『右の人』になってたりする。それは、無知ゆえに『その場に雰囲気』だけで流され、あまり深く考えないままコロコロと意見を変え易い私たち“世論、民意”も同じ仕組みだな、と思った。考えがあって、意見を変えることは悪くないけれど、個々の中身がからっぽで、それに無自覚な意見ほど罪なものはないのかもしれない、と思った。

『朝鮮人』と『女性』に対する感覚。戦中からの鶴見氏の考えや行動はとても誠実というか実のある人ってカンジだけど、この『朝鮮人』と『女性』の感覚だけぽろり、と抜けているような印象。そこは聞き手の2人がいろいろツッコミを入れているけど、話が宙ぶらりんになるようなかんじ。鶴見氏はいろいろ正直に話をしていて、ある時期まで朝鮮人に対する自分の感覚が『差別』であると認めていて、これだけイロイロ視野広く物事を見たり判断できる人でも、『世代』というものはそういう感覚も染み付かせてしまうんだなあと思った。ある時期から著者を含め、朝鮮人への差別感覚が取り除かれてきているのだけれど、それを聞き手の小熊さんは“高度成長で日本が金を持つようになったので、差別で自尊心を支える必要がなくなった(金のない日本人がさらに金のない朝鮮人を馬鹿にして自尊心を支える)”と表現していて、ああ、差別の仕組みってそういうものなんだ、と改めて突き付けられたカンジで軽い衝撃だった。人の思考が出来上がる過程で、環境や家族や時代や経済状況がすごく関係しているし、そのなかで出来上がった感覚や思考は人に染み付いて、そこから離れるのはなかなか難しい。鶴見氏の女性に対する感覚も、誠実ではあるけれど、そういう『世代』の感覚での仕方なさ、みたいなものを感じたかも。

鶴見氏の長い人生のなかで、表現や発言や思考で筋が通っていないところ、矛盾している感覚も正直に、曖昧なところは曖昧のままで、すごく誠実に答えていた。他にも『エリートの特権の自覚のなさの罪』とか、『ヤクザの仁義的感覚』や、『どんなジャンルや考えの人でも、筋の通った人、純粋な人を赦してしまう、申し訳く思う罪悪感からの感覚』などなど、新しい視点をいろいろもらった本になって、すごく嬉しい。図書館で借りたやつだけど、また自分で購入しようと思う。

レビュー投稿日
2011年10月5日
読了日
2005年11月20日
本棚登録日
2011年10月5日
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