批評を読む快楽って、「なんとなくもやもやした気持ち」が言語化されることにあるのだと思う。
日頃、映画、ドラマ、マンガなど様々なコンテンツを楽しみその恩恵を受けている私にとって、本書が取り上げる作品はどれも馴染み深いもので楽しく読んだ。
(取り上げられてる作品はだいたい自分も視聴のもの、タイトルの名前は知っててこれから視聴しようとしていたもの、気になっていたもののいずれかなのである。ちなみに29作品が紹介されていたが視聴(読了)済み作品は19あった。)
ザファの物語面の物足りなさ、「すずめの戸締まり」をはじめ最近の新海誠監督楽しめなかった理由、「仮面ライダーBLACK SUN」を見た時の困惑など、特に自分の作品を見た時の「楽しみきれない気持ち」の理由の解像度を上げてもらったと思う。
作品の「ここが良かった」の理由は割と見つけやすい、というか言語化しやすい。
ただ、「なんかいまいちだったよね」「いい話ではあるんだけどなんか面白くはなかったよね」の「なんか」の部分は言語化しにくい。
その理由は複合的であったり、作品をさまざまなな要素に分解したときに決定的にうまくいっていない要素があったことに起因していたりする。
その作品の様々な分解をするための補助線を引く作業、そして補助線を引いた中から原因となるものを正しく認識、言語化する作業は訓練が必要というか、教養を必要とするものなのだと思う。
正直本書を読みながら著者に対し「そこまで言わなくても」とか「揚げ足取りじゃん」と思いながら読んだ部分もある(著者の宇野さんも再三本文中でことわっておられたが)。
でも作品の批評とは言語化すること、しかもなるべく具体的に言語化することが大切なのだと思う。
そういう意味で本書は良い文化批評であったのだと思う。
私も日々言語化(批評)のための教養とフラットな視点を持って素晴らしい作品たちと向き合いたい。
- 感想投稿日 : 2024年5月17日
- 読了日 : 2024年6月6日
- 本棚登録日 : 2024年5月17日
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