災害ユートピア――なぜそのとき特別な共同体が立ち上がるのか (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ)
- 亜紀書房 (2010年12月17日発売)
災害が起こったときにふだんの社会秩序が崩れる代わりに、自主的・利他的な行動が立ち上がってくる。それを称してタイトルの「災害ユートピア」。災害時に犯罪や略奪が多発するというのは多くの場合は迷信であり、逆にその「暴動」を抑えようとして行政や富裕層が「エリート・パニック」を起こすと言う。
話の本筋は分かった。ありそうなことだと思う(少しゾンビ映画を思い出した)。しかし、本書の本題は「災害ユートピア」なんかではないのでは、という気がする。
著者はジャーナリストだそうで、1906年のサンフランシスコ地震から始まって、第一次大戦中のカナダはハリファックスでの爆発事故、メキシコシティ大地震、9.11同時多発テロ、カトリーナの事例を順々にあげていく(アジアでの近年の災害は、距離・言語の壁があるといさぎよくあきらめている)。しかし、何を見ても「災害時にみられるコミュニティや連帯は素晴らしい。ひきかえ既成権力はクソ」という話しかしない。
災害時の略奪も起こっていないわけじゃないのだし、なにが「ユートピア」と「略奪」を分けるのか、文化か社会資本か災害中心部からの距離(だいたい略奪とかって災害の周縁部で起こるって説を聞いたような)か、いろいろ考察をする余地もありそうなものだ。日常的な社会秩序がご破算になった状態で、どういうふうに人たちが行動するのかの社会心理学的な分析も多少はあろうかとも思っていたのだが、その手の記述は全然ない。事例をいくつ並べてみても、それをネタに同じ話しかできないのでは面白くもない。
その反面、ブッシュやイラク戦争が全然ダメみたいな話にはえらくご執心なのである。
とにかく最後まで読んで得心したのは、この方はカトリーナのときにニューオーリンズで起こった「エリート・パニック」、すなわち行政(FEMAとか)の機能不全やら人種差別的な「自警団」の行動やらに強い問題意識があるようだ。それならそれで、カトリーナに的を絞ったノンフィクションでも書けばよくって、無理に災害ユートピア全般に話を広げなくてもね。アメリカは厚い本を書くジャーナリストが偉いみたいな風潮があるのかね。
一点、へーと思ったのは、「レインボー・ギャザリング」っていうカーニバル的なキャンプ生活があるそうだが、そういった活動しているヒッピー的(?)な人々は、水利・煮炊き・トイレなど原始的環境でのサバイバル的な組織だった自治が得意なので、実際に被災地でも活躍したと。これは右翼的なサバイバリストが家族単位で引きこもりがちなのとも好対照を成す。
(似たところで「バーニング・マン」が有名だが、これはだいぶコマーシャライズされているそう)
- 感想投稿日 : 2018年11月5日
- 読了日 : 2013年7月17日
- 本棚登録日 : 2018年11月5日
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