…一年前、強引に休みを合わせ、三泊四日で韓国のソウルに行った。とにかく美味しいものを食べよう、というのが冬子さんの計画だった。…ホテルのレストランには正装で行くべきだ、という冬子さんの提案に従い、私たちは買ったばかりのブランド服に身を包み、気持ちだけはセレブのつもりでテーブルについた。冬子さんはその前日、一人で行ってきたどこかの宝石店で買ってきたという、シルバーのペンダントをつけていた。…

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…「これは特撮映画と同じファンタジーだと思ってきいてください。でも、もしかしたらキングがなにか動いているのかもしれない。Gボーイズをふたつに割るのが嫌で、ヒロトさんの派閥から牙を抜こうとしているのかもしれない。それだけ腕の立つやつらを集められるのは、池袋にも数えるほどしかいない。タカシさんなら、そいつは簡単かもしれない」…

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…「そのバンドの、レコードジャケットには、但し書きがあったんだ。『曲中に無音の箇所がありますが、制作者の意図によるものです。ご了承ください』とかな」
「話題作りなのかな」
「だとしたら、失敗だな。話題にしたのは一部の隠れファンだけだ。俺の勘では、多分録音ミスだ」友人はジョッキに口をつけ、首を曲げ、天井を眺めながらビールを飲み干す。「録り直すのが面倒だったのか、金がなくて録り直せなかったのか、とにかく、そのまま、発売せざるをえなかったんじゃないか」…

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…「染谷先生はわかってるんだね」
山岸がぽつりといった。
「あいつは頭がほんとに切れるから」
「そうじゃなくて、良太先生の力だよ。染谷先生は素晴らしくできる先生だけど、人の心を動かすことは苦手。だけど、あなたはクラス競争がビリで不器用でも、誰かを感動させたり、その人を内側から変えることが、たまにできる。染谷先生はそれがわかっているんだ」…

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…たっぷり十秒間の沈黙があった。
確かに<自殺>という言葉が聞こえたのだけど、投げかけられたその言葉をどう扱えばいいのかわからなかった。自殺というのは、自ら命を絶つことだ。一体誰が友人の葬儀の帰り道で、その友と同じ時を過ごした友人から『自殺する』という言葉を聞くなんて想像するだろうか…

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…「国民は、犬養の思うがままに誘導される。説明もないのに、いいように解釈して、物分りが良く、いつの間にか、とんでもないところに誘導される。『まだ大丈夫、まだ大丈夫』『仕方がないよ、こんな状況なんだし』なんて思っているうちに、とんでもないことになる。それを暗示しているんじゃないか?」…

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…「だれかに必要とされるってことは、だれかの希望になるってことだ」
このへんてこりんな男を必要とし、希望とした人間が、広い世界のどこかには存在するのだろうか。多田にはとても信じられなかった。…

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…「日頃は疑り深い人でもね、たとえば飛行機でたまたま隣り合わせになった相手とか、歯医者の待合室で偶然一緒だった人のことは、意外に信用したくなるんだって」
「あ、分かる気がしますね」運命の出会い、とは言わないが、けれど、そういった巡り合わせは良いこととして解釈したくなる心理は分からないでもなかった。
「海外では、マフィアのボスが偶然、同乗した客に犯罪へのかかわりを洩らして、その客が刑事だったものだから、捕まったということもあったらしいし」…

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…「じゃあ、数字を憶えるのとかも得意?」そう言って、彼女は不意に六桁の数字を口にした。僕は言われるまま、数字を一度頭の中で復誦した。「ええ、大丈夫です。覚えました。」「じゃあ言ってみて」僕は暗誦してみせた。「もう一回」僕は繰り返す。「じゃあそれ、忘れないようにしておいてください。それ、ウチの電話番号だから」…

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…「別口の強盗だな」響野が言う。「警察から逃げてるんだよ。それが私たちの車とぶつかりそうになった。車が壊れたものだから、慌てて私たちの車を奪って逃げていった。あれは例の現金輸送車ジャックか?」…

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…あぽとは空港のことだ。航空業界、旅行業界では、かつてテレックスを使っていた名残で、アルファベット三文字で事物を表すことが多い。旅客はPAX、航空券はTKT、ホテルはHTL、そして空港はAPO。それをそのままローマ字読みしたアポは、普段の会話の中でもよく使われる業界用語だ。そこから取ったあぽやんだが、もともとは悪い意味で使われる言葉ではなかったらしい。ツアーの出発点となる空港で、様々なトラブルを排し旅客を無事に送り出す空港のエキスパートを、賞賛を込めて呼んだのが始まりのようだ。…

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…「オズワルド」森田森吾の声が、頭に響く。「おまえ、オズワルドにされるぞ」ケネディ暗殺の後、逮捕され、移送途中に銃殺されたあのオズワルド。オズワルドを銃殺したのは、ジャック・ルービーという男だった。ケネディを、「個人的に」殺害したオズワルドを、やはり、「個人的に」殺害したジャック・ルービー、どちらにも大きな組織や政治家のかかわりは存在しない、とされた。「そんな都合のいい話がありますか?」ファストフード店で唾を飛ばし、弁護人さながらに訴えていたのは誰だ。後輩のカズだ。…

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…「いいか、豪は自分以外のエースを認めないよ」
そしてまた繰り返す。絶対に認めない、と。
ぞくり、と背中に冷たいものが走った気がした。あの、無表情な石尾さんが感情をむき出しにすることがあるのだろうか。それとも、無表情なまま、なんらかの行動に出るのだろうか。
赤城さんの口調は、以前にも同じようなことがあったようにも聞こえた。…

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…「じゃあ、どんな正義の味方を研究するの?」
「そうじゃなくて、どういうのが正義の味方かを研究するんだよ」
「ええっと」と僕は考えた。「どういうのがって研究する、その正義の味方って、何?」
「何、じゃなくて、俺らだよ」
「僕ら?」
「そう。俺ら。この、ここの部」

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…優紀のボクシング部の入部はクラスメイトたちにも奇異な目で見られていた。特進クラスでもトップクラスの優紀がよりによって格闘技をやるというニュースはちょっとした好奇の的になっていた。そこには「アホとちゃうか」というニュアンスが含まれていた。中には面と向かって「お前がボクシングなんかやっても強なるわけないやん」という男子生徒もいた。…

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…今回のおれの話は、独裁者とグルになった独占企業が好き勝手に働く人間からしぼりとれるアフリカや中南米の話じゃない。おれたちの目のまえで起きているリアルライフストーリーだ。この社会に無視されて透明人間になった難民たちのレジスタンスの物語なんだ。…

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…本庄病院は開設以来、変わらぬ理念を打ち立て続けている。診療に昼も夜もない。患者に一次も三次もない。あらゆる事態に対応するのが地域医療の基幹病院としての当然の義務である、と。理念は完璧である。しかし内実はそう単純ではない。救急車のサイレンは深夜でも途切れず、それを受け入れるのは、睡眠不足と低血糖の医者と経験不足の研修医だ。むろん患者にとってみればありがたい看板であろうが、内側から見れば、まるっきり張り子の虎なのである。…

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…莞爾が茶々を入れ、誰かのわざとらしい欠伸が聞こえたが、僕はどういうわけか彼の言葉に耳を塞ぐことができず、「その気になれば?」と続きが気になった。西嶋が、ぱかっと口を開き、「その気になればね、砂漠に雪を降らすことだって、余裕でできるんですよ」と断言した。…

2010年10月7日

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…「『ローマの休日』をおばあちゃんと一緒に見るんだよ。で、見終わったあとに、おじいちゃんの思い出話をたくさんしようよ」…「でっかいスクリーンで見せてやろうぜ」かおるはきっぱりと言った。「映画館とかそういうとこでさ」…

2010年9月12日

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…私は、自分の人生がまだまだ長い、と信じていた。だから、そのうちに康子のほうから詫びてくるのではないか、と高をくくっていたところはある。まさかその翌年に、「あと八年の寿命」と言い渡されるとは、思ってもいなかった。それも、「私の寿命」ではなくて「世界の寿命」だったのだから、まったく、物事は私の予想を超えている。…

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