『Gene Mapper』の著者による“自己”出版作品第2弾。
今作は「仮想通貨による電子決済」が広く普及した近未来の日本が舞台。例えば、海外では利用者も増加しているというBitcoin(ビットコイン)。これが爆発的に普及して、生活に必要なものがすべてBitcoinで購入することができるようになったら。給与の支払いさえBitcoinで行われるようになったら。そんな世界観。
古代ローマで兵士に支給された塩はそれ自体に価値があったけれど、現代の給与として支払われる貨幣それ自体に実用的な価値はない(お札なら鼻をかめなくはないけど)。経済の主体がそれに価値があると認め合っているだけのことで、物々交換や労働の対価として塩を支給していたことに比べれば、その行為自体がかなり仮想的だ。
仮想通貨による経済が、“表”の貨幣経済を上回って拡大する。そのことに対する危惧も忌避も理解できるけど、あながち非現実的な話ではないようにも思う。信用に足る技術が確立されれば、それを活用しようという流れを押しとどめることは難しいし、この著者の作品は常に現実を更新(Update)していくから。
前作でも感じたことだけど、この著者は現在と地続きの未来を描くのが本当にうまい。現在の世界で実用化済のテクノロジが強化・増補されて普及した未来世界。それらの技術に適応した、今とは少しだけ違う姿をした人々。
それだけに前作以上のボリュームの小ささがやや残念。その一方で、こうした作品を積み重ねた集大成として、いつか近未来SFの傑作長編を生み出してくれるのではないかと期待していたりもする。何せ著者の手になる作品はまだたったの2つしかないんだから。
- 感想投稿日 : 2013年9月21日
- 読了日 : 2013年9月21日
- 本棚登録日 : 2013年8月29日
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